2026/09/07

民法・税法・金融実務が混ざる相続実務3級を時系列でほどく

遺言があるかどうかで、その後の道筋は大きく分かれます。相続開始から遺産分割、金融機関の窓口対応、3年という期限が付いた相続登記、二段構えの相続税計算まで、実務の流れに沿って積み上げます。

執筆:ケンテイラボ編集部(資格試験対策アプリ開発・運営)

相続実務3級は、銀行業務検定協会が実施する、相続実務の入口にあたる検定です。金融機関の窓口担当者・渉外担当者を主な対象に、相続の手続、被相続人にかかる金融取引の実務、そして税制改正を含む相続税の相談に必要な知識がどこまで身についているかを測ります。四答択一式50問・120分、100点満点中60点以上で合格という形式で、第163回(2026年3月実施)の公式集計では受験者1,422名に対し合格者593名、合格率41.70%、平均点54.96点でした。

この試験でつまずく理由は、範囲が広いことそのものよりも、性格の違う3つの体系を同時に扱わなければならない点にあります。民法の相続法は「誰が何を相続するか」を決め、相続税法は「いくら課税されるか」を決め、金融実務は「窓口で何をするか」を決める。同じ1件の相続を扱っていても、関心の向きが違うのです。本記事では、条文の並び順ではなく、相続が発生してから相続税の申告が終わるまでという時系列に沿って、この3つを交互に並べ直して解説します。

この検定が扱う3つの体系と、それが混ざることの難しさ

出題される内容は、性格の違う3つの体系にまたがっています(以下は本記事の整理で、協会が公表している出題区分ではありません)。1つ目は民法の相続法で、相続人の範囲・法定相続分・遺言・遺留分・遺産分割といった、権利の帰属を決めるルールです。2つ目は相続税法で、確定した取得内容に対して課税価格を出し、税額を計算し、申告・納付するまでのルールです。3つ目は金融機関の相続実務で、相続預金の払戻し、貸金庫の開扉、借入金や保証の承継といった窓口の手続を扱います。

  • 主催:銀行業務検定協会(運営:株式会社経済法令研究会)
  • 出題形式:四答択一式〈一部事例付〉50問(各2点)
  • 内訳:(1)基本知識40問、(2)技能・応用(事例付四答択一式)10問
  • 試験時間:120分(公開試験は試験開始後60分間と終了前10分間は退席禁止)
  • 合格基準:100点満点中60点以上(公開試験は試験委員会にて最終決定)
  • 受験料:5,500円(税込)。CBT方式は別途、事務手数料330円(税込)
  • 実施:公開試験は年2回、CBT方式は通年で受験可能(同内容・同レベル)
  • 直近実績:第163回(2026年3月実施)受験者1,422名・合格者593名・合格率41.70%・平均点54.96点

3つの体系は、根拠となる法律も、判断する主体も、意識している時間軸も違います。民法は相続人どうしの間で権利がどう分かれるかを決め、税法は国に対していくら納めるかを決め、金融実務は金融機関が誰に支払えば安全かという別の関心で動いています。同じ「相続」という言葉を使っていても、問いの立て方が異なるため、体系をまたいだ瞬間に頭が切り替わらず失点する、というのがこの試験の典型的な負け方です。

平均点54.96点という数字は、合格ラインの60点まであと数問という層が厚いことを示しています。どこか一つの体系だけを深掘りしても押し切れない配点であり、逆に言えば、3つを薄く均等に潰していけば十分に届く試験でもあります。得意分野を伸ばすより、穴を作らないことが優先されます。

そこで有効なのが、時系列で並べ直すという整理です。相続が開始し、遺言の有無で分岐し、遺産分割を経て、金融機関で手続をし、不動産の名義を変え、最後に相続税を申告する。この流れに沿って知識を配置すると、「窓口の手続がなぜその形になっているのか」を民法の原則から説明できるようになり、暗記量そのものが減ります。

受験形式も学習計画に影響します。公開試験は年2回の実施で、CBT方式は通年で受験できます。内容とレベルは同じなので、学習の仕上がりに合わせて受験時期を決められるのがCBT方式の利点です。一方、公開試験にはマークシート式という形式面の慣れが必要になります。いずれにせよ120分で50問なので、1問あたりに使える時間には余裕があります。時間が足りなくなるとすれば、事例付の技能・応用10問で計算に詰まったときです。

相続開始——誰が相続人になり、どれだけ取得するのか

相続は人の死亡によって開始します。最初に確定させるのは相続人の範囲です。配偶者は常に相続人となり、血族相続人には順位があります。第一順位は子、子がいなければ直系尊属、それもいなければ兄弟姉妹という順序で、上位の順位者がいる限り下位の者は相続人になりません。この順位の構造は後のすべての手続の前提になるため、最初に完全に固めておく必要があります。

ここに代襲相続が絡みます。相続人となるはずだった子が被相続人より先に死亡していた場合などに、その子(被相続人から見た孫)が代わって相続する仕組みです。試験で差がつくのは、代襲がどこまで及ぶかという範囲の問題です。子の系統は再代襲が認められ、孫も死亡していればひ孫へと下に延びます(民法887条3項)。これに対し兄弟姉妹の代襲は甥・姪の一代限りで再代襲はありません。扱いが分かれるため、選択肢を読んで即答しようとせず、家系図を書いてから判断する癖をつけておくと安全です。

相続人が確定したら、次は法定相続分です。配偶者と並ぶ相続人が第一順位なのか、直系尊属なのか、兄弟姉妹なのかによって、配偶者の取り分は変わります。さらに代襲相続人が複数いる場合には、被代襲者が受けるはずだった相続分をその人数で分けるという二段階の計算が入ります。分数の掛け算が続くので、読むだけでなく実際に手を動かして計算する練習が要る分野です。

相続人には、相続するかどうかを選ぶ権利もあります。単純承認・限定承認・相続放棄の3つで、限定承認と放棄には、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月という熟慮期間があります(家庭裁判所に伸長を請求できます)。いずれも家庭裁判所への申述が必要で、限定承認は共同相続人全員が共同してしなければならないのに対し、相続放棄は各相続人が単独で申述できます。この違いは選択肢で入れ替えられやすいところです。放棄した者は初めから相続人でなかったものとして扱われるため、その後の相続分の計算にも影響します。

加えて、相続人の間の公平を調整する制度として特別受益と寄与分があります。第163回の公式集計では、特別受益の対象額の計算と特別寄与制度が平均点の低かった問題に挙がっており、条文の理解と計算の両方が要求される論点であることがわかります。生前に贈与を受けた分をどう持ち戻して計算するのか、相続人以外の親族が療養看護に努めた場合はどう扱われるのかを、別々に整理しておきましょう。

遺言があるかどうかで、その後の道筋が分かれる

相続人と相続分は民法の原則で決まりますが、被相続人は遺言によってその原則を修正できます。したがって実務でも試験でも、相続人を確定させた次の分岐は「遺言があるかどうか」になります。遺言があればその内容が優先し、なければ相続人全員での遺産分割協議に進む、という道筋の違いをまず頭に入れておきます。

普通方式の遺言は自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つです(このほかに死亡危急時遺言などの特別方式があります)。作成の方法、証人が必要かどうか、家庭裁判所の検認が必要かどうかがそれぞれ異なるため、縦に3方式、横に要件を並べた表を自分で作って覚えるのが最短です。あわせて、遺言の内容を実現する遺言執行者の権限も出題されます。

検認は、遺言書の形状や内容を家庭裁判所が確認して現状を保全する手続であり、遺言が有効か無効かを判断するものではありません。この点は誤りの選択肢として繰り返し使われるところです。金融機関の窓口という視点で見ると、遺言があるかどうか、検認を経ているかどうか、遺言執行者が指定されているかどうかで、誰に対して手続を進めるべきかが変わってきます。民法の知識が実務の判断に直結する典型例です。

自筆証書遺言については、近年2つの改正が入っています。1つは2019年1月13日から、財産目録の部分についてはパソコンでの作成や通帳のコピーの添付が認められるようになったことです。ただし目録の各頁に署名押印が必要という条件がつきます。もう1つは2020年7月10日に開始した法務局の自筆証書遺言書保管制度で、この制度により保管された遺言書については検認が不要になります。

遺言があっても、一定の相続人には最低限の取り分として遺留分が保障されています。ここで押さえたいのが2019年7月1日施行の改正です。遺留分は金銭債権として整理され、遺留分侵害額請求という形になりました。目的物そのものについて共有関係が生じるのではなく、金銭の支払を請求する権利になったという点が、改正前との比較で問われます。

  • 2019年1月13日から:自筆証書遺言の財産目録はパソコン作成等が可能(各頁に署名押印が必要)
  • 2019年7月1日施行:遺留分が金銭債権化され、遺留分侵害額請求として整理された
  • 2020年7月10日開始:法務局の自筆証書遺言書保管制度。保管された遺言書は検認が不要
  • 覚え方:制度は「名称・施行日・適用対象」の3点セットで記憶する。日付だけを切り離して覚えると、どの制度の日付か混ざる

遺産分割——協議・調停・審判と、10年という新しい区切り

遺言がない場合、あるいは遺言が財産の一部しかカバーしていない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。協議は全員の合意が成立要件であり、一人でも欠けていれば成立しません。だからこそ、前段の相続人の確定が実務上の生命線になります。戸籍を遡って収集する作業や、法定相続情報一覧図の使い方が問われるのもこの文脈です。

協議がまとまらないときは家庭裁判所の調停に進み、調停が不成立になれば審判に移行します。ただし遺産分割は調停前置ではなく、調停を経ずに審判を申し立てることもできます(その場合、裁判所が職権で調停に付すことがあります)。協議・調停・審判という順序と、それぞれが誰の判断で終結するのかを押さえておけば、事例問題で「次にどうなるか」を問われても迷いません。

この分野で新しい論点になっているのが、2023年4月1日施行の民法904条の3です。相続開始から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として法定相続分(または指定相続分)によることになりました。このルールは施行日より前に開始した相続にも適用されますが、経過措置があり、相続開始から10年を経過する時と2028年3月31日の経過時のいずれか遅い時までは、具体的相続分による分割を求められます。つまり、特別受益や寄与分を主張して取り分を修正するには、期間の制限がかかることになったわけです。

試験対策としては、この10年という期間が何に対する制限なのかを正確に押さえることが重要です。相続放棄の熟慮期間である3か月や、後述する相続税申告の10か月と混同しやすいため、期間だけを抜き出した一覧を作って区別しておくとよいでしょう。この試験は、制度を知らないことよりも、似た期間や似た金額を取り違えることによる失点が起きやすい構造をしています。

金融機関の窓口では何が起きているのか

ここからが金融実務です。金融機関が被相続人の死亡を把握すると、まず口座の入出金を止め、相続人の確認と必要書類の徴求に進みます。誰が正当な権利者かを確認しないまま払い戻せば、金融機関自身が二重払いのリスクを負うためです。窓口の慎重さには民法上の理由があり、この順序で理解すると手続の細部が暗記でなくなります。

相続人の確認には、被相続人の出生から死亡までの戸籍を遡って収集する作業が伴います。ここで役立つのが法定相続情報一覧図で、相続関係を一覧にまとめたものに登記官が認証文を付す仕組みです。複数の金融機関や登記の手続で戸籍の束を何度も出し直す負担を減らせるため、実務でも試験でもその使い方が問われます。相続人の確定という民法の作業が、そのまま窓口の必要書類につながっているわけです。

とはいえ、葬儀費用や当面の生活費のために資金が必要になる場面もあります。そこで2019年7月1日に施行されたのが預貯金の払戻し制度です。各共同相続人は、口座ごとに「相続開始時の預貯金債権の額×3分の1×その相続人の法定相続分」までの金額について、同一の金融機関につき150万円を限度として、単独で払戻しを受けられます。

この制度で取り違えやすいのが、150万円という上限の単位です。口座ごとではなく、同一の金融機関につきという単位で効いてきます。また、家庭裁判所の保全処分による仮払いとは別の制度である点も区別が必要です。前提として、預貯金債権が遺産分割の対象になるという判例の考え方も押さえておくと、制度の位置づけが理解しやすくなります。

預金以外にも実務は広がります。貸金庫の開扉と内容物の確認、投資信託や国債といった預金以外の商品の承継、当座勘定や手形・小切手の扱いは、それぞれ手続の性格が異なります。また、相続等で取得した土地を一定の要件のもとで国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度が2023年4月27日に施行されており、建物がある土地や担保権が設定された土地は却下されるといった細かい要件、審査手数料と負担金の納付が必要な点が出題されます。

被相続人が借入人だった場合は、債務の承継が論点になります。可分債務である金銭債務は、相続人が法定相続分に応じて当然に分割承継するというのが民法の原則です。一方、実務では免責的債務引受などによって借入人を一本化することが多く、この原則と実務の対比という形で問われます。原則をあいまいにしたまま実務の手続だけを覚えると、選択肢の言い換えに対応できません。

担保・保証の分野には、期限がついた論点があります。根抵当権は、元本確定前に債務者または根抵当権者が死亡した場合、相続開始後6か月以内に指定債務者(指定根抵当権者)の合意の登記をしなければ、相続開始の時に元本が確定します。保証については、通常の保証債務が法定相続分に応じて承継されるのに対し、個人根保証契約は保証人の死亡によって元本が確定するという対比が要点です。第163回の公式集計でも「保証人または債務者の死亡」が平均点の低かった問題に挙がっており、6か月という期間と元本確定という効果を正確に結びつけられているかが問われます。

相続登記の義務化——3年の期限と相続人申告登記

遺産に不動産が含まれていれば、名義変更の手続が必要になります。2024年4月1日から相続登記が義務化され、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならないことになりました。ここで落としやすいのが経過措置で、2024年4月1日より前に発生した相続で未登記のものも義務の対象になり、その場合は2027年3月31日までに申請する必要があります。遺産分割が成立した場合は、その成立日から3年以内という別の期限も定められています。正当な理由なくこれを怠った場合には、10万円以下の過料の対象となります。

ただし、遺産分割がまとまらないまま3年が過ぎてしまうことは現実に起こります。そこで用意されているのが相続人申告登記です。登記名義人について相続が開始したことと、自分がその相続人であることを登記官に申し出ることで、申請義務を簡易に履行できる仕組みです。あくまで義務の履行手段であって、権利関係を確定させる登記そのものとは性格が違う、という点まで理解しておきたいところです。

義務化が導入された背景には、名義が変わらないまま放置され、所有者が誰なのか分からなくなった不動産が増えたという事情があります。制度の趣旨を押さえておくと、なぜ期限と過料という形で義務が組まれ、同時に相続人申告登記という簡易な逃げ道が用意されているのかが理解しやすくなります。丸暗記ではなく、制度がどんな問題を解こうとしているのかから入るほうが記憶に残ります。

出題では、3年という期間の起算点、過料の金額、相続人申告登記が何のための手段なのかがセットで問われます。相続登記は、民法で決まった結論を公示に反映させる手続です。遺産分割の結果と登記の関係を意識しておくと、時系列のどこにこの手続が入るのかが自然に見えてきます。

相続税の計算は二段構えで進む

相続の内容が固まったら、相続税の計算に移ります。相続税は、各人が取得した額にそのまま税率を掛ける形ではなく、二段構えの構造になっているところが最大の特徴です。この構造を理解しているかどうかが、事例付の技能・応用問題で手が動くかどうかを分けます。

計算の出発点は、課税財産の把握です。被相続人が持っていた財産をそのまま拾うだけでなく、非課税とされる財産を除き、債務や葬式費用を控除して課税価格を組み立てます。ここで扱う「財産」は民法上の相続財産とぴったり一致するわけではなく、税法独自の考え方で範囲が決まります。民法の議論から税法の議論へ切り替わる地点なので、意識して線を引いておきましょう。

まず、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を出します。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。ここでの法定相続人の数については養子に制限があり、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までしか算入できません。この制限は計算の入口に効いてくるため、見落とすと以降の数字がすべてずれます。

次に、課税遺産総額を法定相続分で按分した金額に、10%から55%までの8段階の超過累進税率を適用して、相続税の総額を算出します。この総額を各人の実際の取得割合で按分し、そこから配偶者の税額軽減や未成年者控除などを差し引いて、各人の納付税額が確定します。

「いったん法定相続分で割って税額を出し、実際の取得割合で割り戻す」というこの流れが体に入っていれば、金額が変わっても同じ手順で解けます。逆に、この順序があいまいなまま個々の控除だけを覚えても、事例問題では使えません。計算の骨格を先に固め、控除は後から肉付けする順序で学習するのが効率的です。

申告と納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。金銭で一時に納付することが難しい場合の延納、延納によっても難しい場合の物納という順序と、それぞれの要件もあわせて問われます。

  • 相続放棄・限定承認:原則3か月の熟慮期間
  • 根抵当権の指定債務者等の合意の登記:相続開始後6か月以内(過ぎると相続開始の時に元本確定)
  • 相続税の申告・納付:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内
  • 相続登記の申請:取得を知った日から3年以内(2024年4月1日から義務化、10万円以下の過料)
  • 遺産分割での特別受益・寄与分の主張:相続開始から10年(2023年4月1日施行の民法904条の3)

財産の評価と、生前贈与を相続税に取り込む仕組み

相続税の計算に入る前提として、財産をいくらと見るかという評価の問題があります。宅地は路線価方式または倍率方式で評価し、小規模宅地等の特例では、居住用・事業用・貸付用のどれにあたるかによって限度面積と減額割合が異なります。区分の見分け方から押さえないと、数字だけ覚えても使えない分野です。

もう一つの柱が、生前に行われた贈与を相続税にどう取り込むかという論点です。ここは近年の改正が集中しており、施行日とセットで整理することが欠かせません。改正前の知識のまま解くと、正しい制度理解であっても不正解になります。

暦年課税については、2024年1月1日以後の贈与から生前贈与加算の対象期間が7年に延長されました。ただし移行は段階的で、相続開始日が2026年12月31日以前であれば従来どおり3年以内、2031年1月1日以後に開始した相続で7年以内が完全に適用されます。また、延長された期間に取得した財産については、合計100万円まで加算されません。

相続時精算課税についても、2024年から年110万円の基礎控除が創設されました。特別控除2,500万円、税率一律20%という従来の枠組みと合わせて押さえておくと、暦年課税とどちらが有利かを比較させる形の問題に対応できます。

この分野の数字は「制度名・金額・適用開始時期」の3点セットで覚えるのが安全です。100万円・110万円・2,500万円のように似た金額が並ぶため、金額だけを切り離して暗記すると、どの制度のものだったかが混ざります。制度の趣旨から金額を思い出せる状態を目標にしましょう。

相続の前後を支える周辺制度——生前対策・事業承継・遺族年金

最後に、相続の前後に関わる周辺制度です。2020年4月1日施行の配偶者居住権は、配偶者が居住していた建物に住み続けながら、預貯金など他の財産も取得しやすくするための権利です。遺産分割や遺贈によってどのように設定されるのか、登記が必要かどうかが問われます。

判断能力が低下した場合に備える成年後見・任意後見、生命保険を活用した納税資金の準備、自社株の評価を含む事業承継の枠組みも範囲に入ります。さらに、遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給要件という社会保険の領域まで出題対象となるため、民法・税法とは別のもう一つの体系として時間を確保しておく必要があります。

制度ごとに根拠法も所管も異なるため、「誰が・いつから・何のために使う制度か」という軸で並べ直すと混乱しにくくなります。なお、実際にどの制度が使えるかは個別の事情によって変わり、専門家の判断が前提となる領域です。試験対策としては、一般的な制度の枠組みを正確に理解することに徹するのが適切です。

収録問題305問の分野内訳

ケンテイラボでは、相続実務3級の対策問題を305問・8分野で収録しています。以下は分野ごとの収録数と構成比、そして各分野で何が問われるのかの解説です。ここまで見てきた3つの体系が、実際にはどのような配分になっているのかが確認できます。

収録問題8分野の内訳と比重

ケンテイラボでは相続アドバイザー3級の収録問題を8の分野に分けて整理しています (学習しやすさを優先した本サイト独自の区分で、実施団体が公表している 出題区分そのものではありません)。収録している305問を分野別に集計すると、 最も問題数が多いのは「① 相続の基礎(相続人・相続分・遺産分割)」の40問(全体の13.1%)、 最も少ないのは「⑤ 金融実務③ 担保・保証と相続」の32問(同10.5%)です。上位3分野だけで全体の39.3%を占めるため、 ここを先に固めるかどうかが得点の土台になります。

民法にあたるのが①②、金融実務が③④⑤、相続税が⑥⑦、そして周辺知識が⑧という並びです。金融実務だけが3つの分野に分かれている点に、この検定が金融機関の窓口・渉外担当者を主な対象としている性格がはっきり表れています。民法や税法の学習に時間を取られて金融実務を後回しにすると、構成比の大きい部分を落とすことになります。

分野別の学習負荷を収録データから見る

次の表は、収録している問題を分野別に集計して「数値を含む問題の割合」と「問題文の平均文字数」を出したものです。数値の比率が高い分野は金額・期間・割合の暗記が中心、平均文字数が長い分野は事例を読み解く負荷が高い、という学習の性格の違いを示しています。

分野別の学習タイプ(収録305問の集計)

ケンテイラボに収録している相続アドバイザー3級の問題を分野別に集計し、 「問題文または選択肢に数値が登場する問題の割合」と「問題文の平均文字数」を出しました。 数値の割合が高い分野は具体的な数字の暗記が得点を左右しやすく、 低い分野は用語の理解や文章の読み取りが中心になる傾向があります。

この試験でもっとも数値の比率が高いのは「⑦ 相続税② 財産評価・生前贈与・精算課税」で69%、 もっとも低いのは「④ 金融実務② 貸金庫・融資・国庫帰属」で24%でした。 また問題文がもっとも長いのは「③ 金融実務① 相続預金の払戻し」の平均55字で、 設問を読み解く負担が大きい分野といえます。

  • ① 相続の基礎(相続人・相続分・遺産分割)40問/数値を含む問題 48%/問題文 平均43
  • ② 遺言・遺留分・相続登記40問/数値を含む問題 35%/問題文 平均34
  • ③ 金融実務① 相続預金の払戻し40問/数値を含む問題 33%/問題文 平均55
  • ④ 金融実務② 貸金庫・融資・国庫帰属38問/数値を含む問題 24%/問題文 平均51
  • ⑤ 金融実務③ 担保・保証と相続32問/数値を含む問題 31%/問題文 平均49
  • ⑥ 相続税① 計算・申告・納付40問/数値を含む問題 63%/問題文 平均46
  • ⑦ 相続税② 財産評価・生前贈与・精算課税35問/数値を含む問題 69%/問題文 平均49
  • ⑧ 相続と周辺知識(生前対策・事業承継・遺族年金)40問/数値を含む問題 50%/問題文 平均41

数値の比率が高い分野は、数字を単独で覚えるより 「どの制度の・何の基準か」とセットで整理すると定着しやすくなります。 比率が低い分野は、似た用語同士の違いを説明できる状態を目指すと得点が安定します。

数値比率の高い分野は、一覧表や暗記カードでの短時間の反復が効きます。一方、問題文が長い分野は、細切れの時間よりも、まとまった時間に事例を読み切る練習を割り当てたほうが効率的です。同じ1時間でも、どの分野に充てるかで得られるものが変わります。この配分を意識するだけで、限られた学習時間の使い方が変わります。

3つの体系を順に積む学習計画

必要な学習期間は、前提知識によって大きく変わります。以下はあくまで進め方の目安として示すモデルであり、必要な量には個人差があります。自分がどちらに近いかを見て、着手する順序の参考にしてください。

金融機関に勤務し、窓口実務に触れたことがある場合

③④⑤の金融実務は日常の業務知識と重なる部分があるため、まず①②の民法と⑥⑦の相続税から着手するのが効率的です。特に相続税の二段構えの計算は、窓口業務では最後まで通しで扱う機会が少なく、盲点になりがちです。ここを先に固めておくと、後半の伸びが安定します。

進め方としては、公式テキストで民法と相続税の骨格を通読してから問題演習に入り、最後に金融実務を確認して知識の抜けを埋める、という順序が考えられます。事例付の技能・応用10問は配点で20点分あるため、直前期には計算問題の反復に時間を厚く配分したいところです。

相続の知識がほとんどない状態から始める場合

まず用語と全体像を作るところから始めます。相続人・相続分・遺産分割という民法の骨格を固めないまま金融実務や相続税に入ると、すべてが個別の暗記になって定着しません。①②を土台にして、そこから③④⑤、⑥⑦へと広げていく順序が無理のない進み方です。

数字の多い分野を最初から詰め込もうとすると挫折しやすいため、初期は制度の趣旨と手続の流れを理解することに時間を使い、金額や期間の暗記は後半に集中させる配分が現実的です。全体を1周してから、2周目以降で数字を詰めていく形になります。理解が先、数字は後、という順序を崩さないことが続けるコツです。

ケンテイラボの305問をどう使い切るか

出題50問のうち40問が基本知識であることを踏まえると、まずは全分野の基本論点を穴なく潰すことが最優先です。ケンテイラボの問題は8分野に分かれているので、分野を絞って解き、正答率の低い分野だけを繰り返すという使い方ができます。苦手な体系がどこかを早い段階で特定できるのが、分野別に演習する利点です。

教材としては、公式テキストと問題解説集を回して、問われ方と独特の言い回しに慣れておくことが基本になります。四答択一式では、制度を理解していても選択肢の表現に引っかかって落とすことがあるためです。ケンテイラボの問題は、その反復量を確保するための補助として使うと相性がよいでしょう。テキストで流れを掴み、問題で理解の穴を探す、という役割分担です。

1周目は正解・不正解にこだわらず、解説を読んで制度の位置づけを確認する目的で進めます。2周目からは、間違えた理由を「制度そのものを知らなかった」「計算や数字を間違えた」「施行日や適用対象を取り違えた」の3つに分類すると、次にやるべきことがはっきりします。この試験では、3つ目の取り違えによる失点が特に起きやすい構造になっています。

直前期には、期間の一覧(3か月・6か月・10か月・3年・10年)と金額の一覧(基礎控除額、払戻しの150万円、過料の10万円以下、精算課税の110万円と2,500万円)を、何も見ずに自分で書き出せるかを確認するとよいでしょう。平均点54.96点という数字が示すとおり、この検定はあと数問の取りこぼしを減らせるかどうかが合否を分けます。範囲の広さに圧倒されるより、時系列に沿って一つずつ配置し直すほうが、結果的に近道になります。

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