画像処理エンジニア検定には、ベーシックとエキスパートの2つのレベルがあります。2026年度前期の合格率は、エキスパートが29.57%、ベーシックが69.87%でした。応募者はエキスパートが374名、ベーシックが371名とほぼ同数で、同じ団体が同じ検定名で実施しているレベル違いです。
それでいて、合格基準点はどちらも100点満点で70点です。公式が示す出題内容の6分類も、レベル別ではなく検定単位で共通のものが1つ載っているだけです。基準も範囲の見出しも同じなのに、合格率だけが40.3ポイント離れています。
この記事は、この落差だけを扱います。回次別の合格率の動き方、合格基準点と出題範囲の書かれ方、対応テキストと試験時間の違いを並べ、どこに差が置かれているのかを整理します。数値はCG-ARTS(公益財団法人 画像情報教育振興協会)の受験要項ページ、受験案内2026、検定結果の一覧、FAQによります。
2026年度前期、応募者がほぼ同数の回で29.57%と69.87%
CG-ARTSの検定結果の一覧は、検定名とレベルごとに応募者と合格率を並べる形式です。2026年度前期の画像処理エンジニア検定は、エキスパートが応募者374名で合格率29.57%、ベーシックが応募者371名で合格率69.87%、検定全体では745名でした。
受験者の集まり方に大きな偏りがある回ではありません。それでも合格率は2倍以上開きます。ベーシックの数字を見て「7割が通る検定」と考えたままエキスパートに申し込むと、想定が大きくずれることになります。
ひとつ断っておくと、回次別に公表されているのは応募者数と合格率の2つだけです。実際に受験した人数と合格者の実数は、検定結果の一覧にも、申込者数・合格率のページにも、受験案内2026の合格率グラフにも掲載を確認できませんでした。そのため本記事では「何名中何名が合格」とは書いていません。
直近12回のエキスパートは21.0%から42.83%まで動く
エキスパートの合格率は、回ごとの振れ幅も大きい数字です。検定結果の一覧に掲載されている直近12回を、応募者数とあわせて並べます。かっこ内は同じ回のベーシックです。
- 2026年度前期:応募者374名/29.57%(ベーシックは371名・69.87%)
- 2025年度後期:応募者442名/27.3%(ベーシックは434名・71.2%)
- 2025年度前期:応募者450名/34.4%(ベーシックは389名・60.5%)
- 2024年度後期:応募者523名/32.8%(ベーシックは472名・72.3%)
- 2024年度前期:応募者503名/21.0%(ベーシックは510名・61.6%)
- 2023年度後期:応募者506名/29.0%
- 2023年度前期:応募者509名/42.7%
- 2022年度後期:応募者644名/32.3%
- 2022年度前期:応募者601名/38.6%
- 2021年度後期:応募者684名/22.2%
- 2021年度前期:応募者524名/32.6%
- 2020年度後期:応募者557名/42.83%
12回のうち30%を超えたのが7回、30%を下回ったのが5回です。最も低いのが2024年度前期の21.0%、最も高いのが2020年度後期の42.83%で、その差は21.8ポイントあります。同じレベルの同じ検定でも、受ける回によって通り方がここまで変わるということです。
一方のベーシックは、同じ検定結果の一覧を直近12回ぶん見ると60.5%から72.3%の範囲に収まっています。エキスパートの20%台から40%台という動き方とは、幅そのものが違います。
なお、この一覧には2020年度前期の掲載がなく、2021年度前期の次が2020年度後期です。12回という数え方はこの掲載状態によります。
合格基準点70点は両レベル共通で、しかも「難易度により多少変動します」
FAQの「何点以上で合格できますか?」には「エキスパート・ベーシックは70点(100点満点)です」と書かれています。エキスパートだから基準点が上がる、という作りではありません。合格率の差は、基準の高さの差では説明できないことになります。
さらに受験案内2026の6ページには、合格基準点70点に「※難易度により多少変動します」という注記が付いています。70点は固定の絶対基準として置かれているわけではなく、回ごとの難易度に応じて動く余地があるという書き方です。
基準点に多少の調整が入りうるにもかかわらず、合格率が20%台から40%台まで動いているとも読めます。逆に言えば、基準点の側で吸収しきれるほど小さい差ではないところに、この検定のばらつきの原因がある、という見方ができます。
大問別・分野別の足切り(科目別基準点)については、受験要項ページ・受験案内2026・FAQのいずれにも記載を確認できませんでした。あわせて「検定の結果に関するお問い合わせにはお答えできません」と明記されているため、自分がどの分野で落としたのかを後から確かめる手段もありません。
出題内容の6分類はレベル別ではなく検定単位で共通
受験案内2026の4ページから5ページにある画像処理エンジニア検定の出題内容は、ベーシックとエキスパートで分けずに、次の6分類が1組だけ示されています。
- [基礎]ディジタルカメラモデル/ディジタル画像/知覚/画像処理の歴史
- [画像信号処理]ディジタル画像の撮影/画像の性質と色空間/幾何学的変換/画素ごとの濃淡変換/フィルタリング処理/画像の復元と生成
- [パターン認識・計測]2値化/領域処理/パターンの検出/パターン認識/特徴点検出/深層学習による画像認識と生成
- [メディア処理・符号化]移動体検出/動画像処理/3次元空間情報の取得と利用/シーンの復元/画像符号化
- [画像処理システム]応用/ハードウェアと周辺機器/システム/規格
- [知的財産権]知的財産権
出題内容の中身についてレベル別に書き分けられているのは、出題範囲欄とレベル欄の各1文だけです。ベーシックは「画像処理の技術に関する基礎的な理解と、プログラミングなどに知識を利用する能力を測ります」、エキスパートは「画像処理の技術に関する専門的な理解と、ソフトウェアやハードウェア、システムの開発に知識を応用する能力を測ります」となっています。
受験案内のレベル欄でも、ベーシックは「基礎知識の理解を測ります」、エキスパートは「専門知識の理解と応用力を測ります」の一言です。題材の一覧が広がるのではなく、同じ見出しの下でどこまで踏み込むかが変わる、という書き分けになっています。合格率の差は、この深さの差として現れていると読むほかありません。
ベーシックとエキスパートを分けた細目レベルのシラバスは、出題範囲のページ、受験案内2026の4ページから5ページ、FAQの試験内容と難易度の項目、書籍ページを見た範囲では掲載を確認できませんでした。レベル別の中身は、対応テキストの側で示される形です。
参照する本が別。ベーシックは入門書、エキスパートは480ページのテキスト
同じ検定名でも、対応する公式テキストはレベルで別の本になります。ベーシックが『ビジュアル情報処理 -CG・画像処理入門-[改訂新版]』(3,190円)、エキスパートが『ディジタル画像処理[改訂第二版]』(B5判フルカラー480ページ、4,290円)です。入門書と、480ページのテキストという分かれ方です。
公式問題集も別冊で、エキスパート公式問題集[第五版](2,860円)はエキスパート4回分、ベーシック公式問題集[第五版](2,200円)はベーシック3回分を収めています。
受験料もレベルで分かれ、エキスパートが7,150円、ベーシックが6,050円(いずれも税込、2026年度から改訂)。認定教育校として団体登録がある場合は1検定につき550円引きで、エキスパートは6,600円、ベーシックは5,500円になります。
ベーシックは午前60分、エキスパートは午後80分。計算機は持ち込めない
実施の時間帯も分かれています。ベーシックは午前で、1検定のみの単願受験が10時から11時までの60分。エキスパートは午後で、単願受験が13時から14時20分までの80分です。同じレベル内で2検定を併願する場合はベーシックが100分、エキスパートが150分になります。
レベルをまたいだ併願はできません。1日に受験できるのは、午前にベーシック2検定、午後にエキスパート2検定までの最大4検定です。当日の受験レベルの変更や検定の追加も認められておらず、同一レベル内での検定名の変更だけが試験開始前まで受け付けられます。
試験中は、開始後35分を経過するまでと、終了10分前からは退出できません。そして2026年度前期のエキスパートの問題冊子の注意事項では、計算機などの電子機器の使用が禁止されています。CG-ARTSは20分の差の理由を説明していないので、事実として言えるのは、ベーシック60分・エキスパート80分という時間差と、計算機を使えないという条件の2点までです。
収録659問の8分野と、「計算」を含む70問の散らばり方
出題の深さの違いは、公式資料の文言だけでは輪郭がつかみにくい部分です。ここからはケンテイラボが収録しているエキスパート向けの659問を材料に、どういう作業を求められる問題が並ぶのかを見ます。まず、収録問題を8分野に分けた内訳と構成比が次の表です。
収録問題8分野の内訳と比重
ケンテイラボでは画像処理エンジニア検定エキスパートの収録問題を8の分野に分けて整理しています (学習しやすさを優先した本サイト独自の区分で、実施団体が公表している 出題区分そのものではありません)。収録している659問を分野別に集計すると、 最も問題数が多いのは「④ 幾何学的変換」の89問(全体の13.5%)、 最も少ないのは「② 画素ごとの濃淡変換と領域に基づく濃淡変換」の78問(同11.8%)です。上位3分野だけで全体の39.1%を占めるため、 ここを先に固めるかどうかが得点の土台になります。
- ④ 幾何学的変換:89問(13.5%) 解説つきで見る →
- ⑤ 2値画像処理と領域処理:85問(12.9%) 解説つきで見る →
- ③ 周波数領域におけるフィルタリングと画像の復元・生成:84問(12.7%) 解説つきで見る →
- ① ディジタル画像の撮影と画像の性質・色空間:81問(12.3%) 解説つきで見る →
- ⑥ パターン・特徴の検出とマッチング/パターン認識/深層学習:81問(12.3%) 解説つきで見る →
- ⑦ 動画像処理/3次元復元/光学的解析とシーンの復元:81問(12.3%) 解説つきで見る →
- ⑧ 画像符号化/知的財産権:80問(12.1%) 解説つきで見る →
- ② 画素ごとの濃淡変換と領域に基づく濃淡変換:78問(11.8%) 解説つきで見る →
収録問題では、問題文・選択肢・解説に「計算」という語を含むものが659問中70問(10.6%)あります。分野別では⑤が15問、⑥が14問、③と④が各10問、⑦が9問、②が8問、①が4問で、特定の分野にまとまるのではなく7分野に散らばっています。同じ数え方で「行列」を含む62問だけは④に40問が寄っており、この分野が変換行列の扱いに集中していることが分かります。
次の表は、分野ごとに「数値を含む問題の割合」と「問題文の平均文字数」を収録問題から集計したものです。数値の比率が高い分野は設定値を入れ替えて解かせる問題が多く、低い分野は用語の定義や性質の切り分けが中心になります。
分野別の学習タイプ(収録659問の集計)
ケンテイラボに収録している画像処理エンジニア検定エキスパートの問題を分野別に集計し、 「問題文または選択肢に数値が登場する問題の割合」と「問題文の平均文字数」を出しました。 数値の割合が高い分野は具体的な数字の暗記が得点を左右しやすく、 低い分野は用語の理解や文章の読み取りが中心になる傾向があります。
この試験でもっとも数値の比率が高いのは「④ 幾何学的変換」で67%、 もっとも低いのは「⑧ 画像符号化/知的財産権」で43%でした。 また問題文がもっとも長いのは「② 画素ごとの濃淡変換と領域に基づく濃淡変換」の平均62字で、 設問を読み解く負担が大きい分野といえます。
- ① ディジタル画像の撮影と画像の性質・色空間:81問/数値を含む問題 65%/問題文 平均52字
- ② 画素ごとの濃淡変換と領域に基づく濃淡変換:78問/数値を含む問題 65%/問題文 平均62字
- ③ 周波数領域におけるフィルタリングと画像の復元・生成:84問/数値を含む問題 45%/問題文 平均48字
- ④ 幾何学的変換:89問/数値を含む問題 67%/問題文 平均44字
- ⑤ 2値画像処理と領域処理:85問/数値を含む問題 66%/問題文 平均47字
- ⑥ パターン・特徴の検出とマッチング/パターン認識/深層学習:81問/数値を含む問題 52%/問題文 平均44字
- ⑦ 動画像処理/3次元復元/光学的解析とシーンの復元:81問/数値を含む問題 52%/問題文 平均48字
- ⑧ 画像符号化/知的財産権:80問/数値を含む問題 43%/問題文 平均39字
数値の比率が高い分野は、数字を単独で覚えるより 「どの制度の・何の基準か」とセットで整理すると定着しやすくなります。 比率が低い分野は、似た用語同士の違いを説明できる状態を目指すと得点が安定します。
ただしこれはケンテイラボの収録問題を集計した自社データで、本試験の分野別の出題数や配分ではありません。分野別・設問別の得点データは公表されていないため、どの分野が何点ぶん出るかを事前に見積もることはできません。
受験資格が無いので、ベーシックを受けていない人も同じ回に混ざる
合格率を読むうえで見落とせないのが、受験資格の設定です。FAQの「下のレベル(級)から順々に取得していかなければいけないのでしょうか?」には「エキスパート、ベーシックは、特に受験資格はありませんので、初めて受験される方でもエキスパートを受験していただくことは可能です」とあります。ベーシック合格は前提条件ではありません。
つまりエキスパートの母集団には、ベーシックを通ってきた人と、いきなり上のレベルから入った人が混ざります。段階を踏んだ人だけが受ける試験の合格率ではない、という点は、29.57%という数字の読み方に関わってきます。
母集団の規模も小さめです。エキスパート単独の応募者は1回あたり370名から690名程度で、CG-ARTS検定5検定の合計である年間約20,000名とは桁が違います。2025年度の申込者比率は専門・専修が69%、社会人13%、大学・大学院11%、高校・高専4%、その他2%ですが、これは5検定合計の内訳で、画像処理エンジニア検定エキスパート単独の数字ではありません。
上位の位置づけを示していたCG-ARTSマイスター制度は、エキスパートを2種類以上合格した人を認定するものでしたが、2025年2月10日をもって新規申請の受付を終了しました。2015年の制度開始からの取得者は350名で、すでに取得している人は今後も称号を使用できます。
年間集計の31%・27%は、回次別の数字と混ぜない
最後に、合格率の引用でずれやすい点を1つ。CG-ARTSは回次別の一覧とは別に、年間の集計も出しています。受験案内2026の3ページにある2025年度の合格率グラフは、画像処理エンジニア検定がベーシック66%・エキスパート31%。受験要項ページの2024年合格率の表はベーシック67%・エキスパート27%です。
同じ年度を回次別で見ると、2025年度はエキスパートが前期34.4%・後期27.3%、2024年度は前期21.0%・後期32.8%です。年間の31%・27%は、どちらもこの2つの回の間に位置しています。ベーシックの66%・67%も、回次別の60.5%から72.3%の間です。
集計の単位が違うので、年間の数字を特定の回の合格率として引用すると食い違います。「エキスパートの合格率は27%」と書かれた資料は2024年の年間集計であって、2024年度前期の21.0%でも後期の32.8%でもありません。
難易度をつかむときにそろえるべきなのは、レベル・回次・集計単位の3つです。そのうえで押さえておきたいのは、ベーシックの60%台や70%台を目安にエキスパートの準備量を見積もると外す、という一点になります。合格基準点も出題内容の見出しも共通のまま、通る割合だけが半分以下になる検定だからです。