情報処理安全確保支援士試験(略号SC)は、「情報処理の促進に関する法律」に基づき経済産業省が実施する国家試験で、試験事務は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行っています。IPAは回次ごとの応募者数・受験者数・合格者数・合格率を公表しており、難易度をめぐる議論はまずこの数字から始められます。
ただし支援士試験の場合、合格率という一つの数字を見ただけでは、受験者がどこで脱落しているのかが分かりません。科目ごとに基準点があり、しかも前の科目で基準点に届かなければ後の科目は採点すらされない仕組みになっているためです。本記事では、公表されている数字と試験要綱の規定を突き合わせて、20%前後という合格率の内側を見ていきます。
直近3回の合格率は15.1%から22.3%まで動いている
IPAが公表している直近3回の数字を並べると、次のようになります。いずれもペーパー方式で実施された回次です。
- 令和7年度秋期:応募26,385人、受験18,816人、合格4,199人、合格率22.3%
- 令和7年度春期:応募22,645人、受験16,526人、合格3,134人、合格率19.0%
- 令和6年度秋期:応募24,032人、受験17,324人、合格2,615人、合格率15.1%
もっとも高い令和7年度秋期の22.3%と、もっとも低い令和6年度秋期の15.1%の差は7.2ポイントです。令和7年度の春期と秋期のあいだだけを見ても3.3ポイント動いています。受験者数はどの回も1万6千人台から1万8千人台に収まっているので、母集団の規模が変わったせいで割合が動いた、という説明は成り立ちにくいところです。
なお令和7年度秋期については、合格者の平均年齢が34.4歳と公表されています。合格発表は2025年12月25日でした。この回は、ペーパー方式で実施された最後の秋期試験にあたります。
つまり「支援士試験の合格率は何%か」という問いに一つの数字で答えるのは、この試験に関しては無理があります。受ける回によって7ポイント幅で動く数字を、どの回のものとして引用しているのかをはっきりさせる必要があります。
年度でならすと20.7%、ただし応募の3割近くが受験していない
回次ごとの振れが大きいなら、年度合計で見るという手があります。IPAの推移表には年度単位の数字も載っています。
- 令和7年度:応募49,030人、受験35,342人(受験率72.1%)、合格7,333人、合格率20.7%
- 令和6年度:応募43,597人、受験31,666人、合格5,384人、合格率17.0%
- 令和5年度:応募37,697人、受験27,110人、合格5,678人、合格率20.9%
年度でならすと17.0%から20.9%の範囲に収まり、回次ごとの15.1%〜22.3%よりは落ち着きます。ただしここで目を引くのは合格率よりも受験率のほうです。令和7年度は応募49,030人に対して受験35,342人で、差し引き13,688人が申し込みながら受験していません。
令和6年度は応募43,597人に対して受験31,666人、令和5年度は応募37,697人に対して受験27,110人と、同じ傾向が続いています。受験手数料7,500円を払ったうえで、3割近くが試験当日に現れないという構図です。
この欠席分は合格率の分母には入っていません。IPAが公表している合格率は受験者数に対する割合なので、欠席者は最初から計算の外にあります。言い換えれば、20.7%は「申し込んだ人のうち合格した割合」ではなく、「試験会場に来た人のうち合格した割合」です。
科目A-1・科目A-2が基準点未満なら、科目Bは採点されない
支援士試験は多段階選抜方式を採っています。試験要綱には「科目A-1・科目A-2試験の得点が基準点に達しない場合には,科目B試験の採点を行わずに不合格とする。」と明記されています。科目A-1・科目A-2・科目Bは、令和7年度試験までの午前Ⅰ・午前Ⅱ・午後にそれぞれ相当する呼称です。
合格の条件は、3科目すべての得点が基準点以上であることです。配点は各科目100点満点、基準点は各科目60点。1科目でも下回れば、他の科目がどれだけ高くても不合格になります。
この仕組みがあるため、不合格者の中身は一様ではありません。午前Ⅰ(科目A-1)で止まった人、午前Ⅱ(科目A-2)で止まった人、午後(科目B)まで採点されたうえで届かなかった人が、同じ「不合格」として合格率の分母に残ります。IPAが公表しているのは応募・受験・合格の3つの人数と合格率であって、どの科目で何人が脱落したかの内訳ではありません。
したがって「合格率20%台だから記述式が難しい」と結論づけるのは早計です。記述式の答案が採点される段階まで到達した人が受験者の何割なのかは、公表資料からは分かりません。合格率の数字を対策に落とし込むなら、まず自分がどの科目で止まりうるかを個別に見積もるほうが実際的です。
各科目100点満点・基準点60点を配点割合で割り戻す
基準点60点が何問ぶんにあたるかは、試験要綱の問題別配点割合から見当がつけられます。
- 科目A-1(旧・午前Ⅰ):試験時間50分、四肢択一30問、問1〜30が各3.4点
- 科目A-2(旧・午前Ⅱ):試験時間40分、四肢択一25問、問1〜25が各4点
- 科目B(旧・午後):試験時間150分、記述式4問から2問を選択、解答する2問が各50点
科目A-2は1問4点なので、15問正解で60点ちょうどです。25問中15問、残せる誤答は10問という計算になります。科目A-1は配点割合をそのまま点数として計算すると、17問で57.8点、18問で61.2点となり、30問中18問が目安の位置に来ます。
科目A-1の出題範囲は共通キャリア・スキルフレームワークの全9大分類・23中分類にわたり、テクノロジ系だけでなくプロジェクトマネジメント、サービスマネジメント、システム戦略、経営戦略、企業と法務まで含みます。高度試験・支援士試験に共通の問題で、技術レベルは3です。一方、科目A-2は専門知識を問う区分で、支援士試験では中分類11「セキュリティ」が重点分野(レベル4)に指定されています。
同じ選択式でも、30問で18問を確保するために必要なものと、25問で15問を確保するために必要なものは性質が違います。前者は9大分類を薄く広く踏む作業、後者はセキュリティ1分野を深く踏む作業です。3科目の試験時間を合算すると240分ですが、そのうち90分がこの2種類の選択式に割り当てられています。
記述2問で100点ぶんが決まる科目Bの重さ
科目B(旧・午後)は、4問のうち2問を選んで解く記述式です。解答する2問がそれぞれ50点なので、100点満点がこの2問だけで決まります。
基準点は60点です。片方を完答しても50点にしかならず、もう1問でも最低10点は積まないと基準点に届きません。選択した2問のどちらかが手に負えなかった時点で、かなり厳しい状況になる構造だということです。
この形になったのは令和5年度秋期試験(2023年10月)からです。それまでは午後Ⅰ(90分・3問中2問)と午後Ⅱ(120分・2問中1問)に分かれており、合計210分・5問中3問解答でした。統合により150分・4問中2問となり、IPAは「問題選択の幅と時間配分の自由度を拡大」「試験時間が短くなりSCの受験しやすさが高まる」と説明しています。問う知識・技能の範囲そのものに変更はないとされています。
科目Bの出題範囲は4つの大分類に整理されています。情報セキュリティマネジメントの推進又は支援、情報システムの企画・設計・開発・運用におけるセキュリティ確保の推進又は支援、情報及び情報システムの利用におけるセキュリティ対策の適用の推進又は支援、情報セキュリティインシデント管理の推進又は支援です。リスクアセスメントや情報セキュリティ監査から、セキュアプログラミング、ファジングや脆弱性診断、ペネトレーションテスト、デジタルフォレンジックスまでが同じ4大分類の中に入っています。
素点方式で、基準点そのものが動くことがある
採点方式についても要綱に規定があります。支援士試験は素点方式で、項目応答理論(IRT)を用いるのはITパスポート試験・情報セキュリティマネジメント試験・基本情報技術者試験の3区分のみとされています。素点方式とは、正解した問題の配点をそのまま合計する方式です。
ただし要綱には「試験結果に問題の難易差が認められた場合には基準点の変更を行うことがある」との規定も併記されています。60点というラインは、動かない絶対値として書かれているわけではありません。
合格率が回次ごとに15.1%から22.3%まで振れることと、この規定は無関係ではなさそうに見えます。ただし、どの回で基準点が変更されたのか、変更の有無が個別に公表されているのかまでは、本記事が参照した資料からは確認していません。数字の振れの原因を特定の要因に帰する書き方は避けておきます。
レベル4の位置づけと、2種類の免除が効く範囲
支援士試験は、共通キャリア・スキルフレームワークの人材像「テクニカルスペシャリスト」のレベル4の前提要件に位置づけられています。レベル4は「高度な知識・スキルを有し,プロフェッショナルとして業務を遂行でき,経験や実績に基づいて作業指示ができる」水準と定義されています。応用情報技術者試験(レベル3)の上位にあたる区分です。
その一方で、科目A-1(令和7年度試験までの午前Ⅰ)には2年間有効な免除制度があります。次のいずれかを満たせば対象です。
- 応用情報技術者試験に合格する
- いずれかの高度試験又は支援士試験に合格する
- いずれかの高度試験又は支援士試験の科目A-1試験(令和7年度試験までは午前Ⅰ試験)で基準点以上の成績を得る
ただし自動適用ではありません。受験申込み時に「一部免除申請番号」を入力して申請する必要があり、上の1つ目と2つ目の条件では合格証書番号、3つ目の条件では午前Ⅰ通過者番号(科目A-1通過者番号)を使います。有効期間内であれば何度でも申請できます。3科目のうち1科目が外れれば、残る2科目に時間を集中できることになります。
さらに支援士試験には、他の高度試験にない科目A-2の免除制度もあります。対象はIPA認定を受けた学科等の卒業(修了)者または卒業(修了)見込み者で、履修計画を修了したことの認定を受けた者です。修了認定をIPAに報告した日から2年間に受験する試験が対象になります。
収録670問を8分野に分けて、科目A-2側の穴を数える
ここまでは公表されている数字の話でした。ここからは、ケンテイラボに収録している対策問題の内訳を示します。次の表は、収録問題を分野ごとに数えて構成比を出したものです。
収録問題8分野の内訳と比重
ケンテイラボでは情報処理安全確保支援士試験の収録問題を8の分野に分けて整理しています (学習しやすさを優先した本サイト独自の区分で、実施団体が公表している 出題区分そのものではありません)。収録している670問を分野別に集計すると、 最も問題数が多いのは「⑤ メール・HTTPセキュリティ」の101問(全体の15.1%)、 最も少ないのは「⑧ 注目の技術」の80問(同11.9%)です。上位3分野だけで全体の39.7%を占めるため、 ここを先に固めるかどうかが得点の土台になります。
分野の比重に加えて、分野ごとの問題の性質にも差があります。次の表は、収録問題のうち数値を含む問題の割合と、問題文の平均文字数を分野別に集計したものです。数値を含む問題の割合が高い分野は具体的な数字や規格番号を覚える比重が大きく、問題文が長い分野は読み取りに時間がかかる、という見当をつける材料になります。
分野別の学習タイプ(収録670問の集計)
ケンテイラボに収録している情報処理安全確保支援士試験の問題を分野別に集計し、 「問題文または選択肢に数値が登場する問題の割合」と「問題文の平均文字数」を出しました。 数値の割合が高い分野は具体的な数字の暗記が得点を左右しやすく、 低い分野は用語の理解や文章の読み取りが中心になる傾向があります。
この試験でもっとも数値の比率が高いのは「⑤ メール・HTTPセキュリティ」で33%、 もっとも低いのは「⑦ 攻撃手法2 Web・パスワード・人的攻撃」で7%でした。 また問題文がもっとも長いのは「③ ネットワークセキュリティ」の平均43字で、 設問を読み解く負担が大きい分野といえます。
- ① 暗号技術:80問/数値を含む問題 30%/問題文 平均38字
- ② 認証技術:82問/数値を含む問題 23%/問題文 平均39字
- ③ ネットワークセキュリティ:81問/数値を含む問題 23%/問題文 平均43字
- ④ サーバ・クライアントセキュリティ:81問/数値を含む問題 16%/問題文 平均37字
- ⑤ メール・HTTPセキュリティ:101問/数値を含む問題 33%/問題文 平均41字
- ⑥ 攻撃手法1 マルウェア・DoS・ネットワーク攻撃:82問/数値を含む問題 9%/問題文 平均32字
- ⑦ 攻撃手法2 Web・パスワード・人的攻撃:83問/数値を含む問題 7%/問題文 平均37字
- ⑧ 注目の技術:80問/数値を含む問題 11%/問題文 平均43字
数値の比率が高い分野は、数字を単独で覚えるより 「どの制度の・何の基準か」とセットで整理すると定着しやすくなります。 比率が低い分野は、似た用語同士の違いを説明できる状態を目指すと得点が安定します。
合格率が回によって7.2ポイント動き、しかも自分がどの科目で止まるかは受けてみるまで分かりません。動かせるのは、選択式で確保できる問数のほうです。科目A-2に相当する範囲であれば、25問中15問という具体的な目標に対して、今の自分が何問取れるかを数えられます。
ケンテイラボには情報処理安全確保支援士試験の対策問題を670問収録しています。暗号技術、認証技術、ネットワークセキュリティ、サーバ・クライアントセキュリティ、メール・HTTPセキュリティ、攻撃手法、注目の技術という分野ごとに解けるので、合格率ではなく自分の正答数で現在地を測る用途に使えます。なお試験制度は令和8年度からCBT方式に移行しているため、受験手数料・日程・申込方法は必ずIPAの公式サイトで最新の内容を確認してください。