世界遺産検定2級の出題対象は、日本の全遺産と世界の代表的な遺産300件です。公式サイトの2級のページは、日本の遺産について登録基準まで覚えることを求めています。件数が多いうえに、1件ごとに基準の番号という項目が付いてくるのが2級です。
登録基準は(i)から(x)までの10項目しかありません。300件を名前と国名の対応だけで覚えるより、どの基準で登録されたかという型で束ねておくと、初めて見る遺産の説明文も読みやすくなります。本記事は、この10項目の読み分けだけを扱います。
基準の中身と番号の経緯はユネスコ世界遺産センターの選定基準ページ、文化遺産・自然遺産・複合遺産の区分は公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の解説、各遺産に付いている基準はユネスコ世界遺産センターの各遺産のページで確認しました。
「10のうち1つ以上」という条件の形
ユネスコ世界遺産センターの選定基準ページは、世界遺産リストに記載されるには顕著な普遍的価値を持ち、10の選定基準のうち少なくとも1つを満たす必要があると説明しています。10項目すべてを満たす必要はありません。
この条件の形が、読み方の順番を決めます。ある遺産について問われたときに探すのは、その遺産に付いている基準の組み合わせです。基準が4つ付く遺産もあれば、1つしか付かない遺産もあります。
基準の本文は、世界遺産条約履行のための作業指針(オペレーショナル・ガイドラインズ)に書かれています。同じページには、世界遺産という考え方そのものの変化に合わせて、委員会が基準を定期的に見直しているとも書かれています。番号と中身の対応には改訂の歴史がある、ということです。
(i)から(vi)と、(vii)から(x)で切れている
10項目は前半6つと後半4つに分かれます。日本ユネスコ協会連盟の解説では、(i)から(vi)で登録された物件が文化遺産、(vii)から(x)で登録された物件が自然遺産、両方の基準で登録されたものが複合遺産と整理されています。
各基準の中身を、ユネスコの選定基準をもとに短くまとめると次のようになります。文言そのものではなく、読み分けに使うための要約です。
- (i) 人間の創造的な才能を示す傑作
- (ii) 建築・技術・記念碑的な芸術・都市計画・景観設計の発展に表れた、時代や地域をこえた価値観の交流
- (iii) 現存する、または消滅した文化的伝統や文明を伝える、類のない(少なくとも希有な)証拠
- (iv) 人類の歴史の重要な段階を示す、建築物・建築群・技術の集合体・景観の顕著な見本
- (v) ある文化を代表する伝統的な集落や土地・海の利用、人と環境の関わりの顕著な見本
- (vi) 顕著な普遍的意義を持つ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術作品や文学作品との直接的・実体的な関連
- (vii) ずば抜けた自然現象、または際立った自然美と美的価値を持つ地域
- (viii) 生命の記録や地形の形成過程など、地球の歴史の主要な段階を示す顕著な見本
- (ix) 陸・淡水・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化と発展における、進行中の生態学的・生物学的過程の顕著な見本
- (x) 絶滅のおそれのある種の生息地を含む、生物多様性を生息域内で保全するうえで最も重要な自然の生息地
前半は人がつくったものや人の営みを、後半は自然そのものを見ています。前半の中でも、(i)から(v)が物や景観の性質を問うのに対し、(vi)だけは出来事や信仰との関連を問う基準です。この違いが、後で見る但し書きにつながります。
2004年までは文化6・自然4という別の番号だった
ユネスコ世界遺産センターの選定基準ページには、番号の由来も書かれています。2004年末までは、文化の6基準と自然の4基準という2組の基準で選定が行われていました。改訂された作業指針の採択によって、現在の10項目1組の基準になっています。
つまり(vii)から(x)という番号は、もともと自然遺産の側で(i)から(iv)と呼ばれていたものです。古い資料で「自然遺産の基準(i)」という表現に出会ったとき、それは現在の(i)ではありません。
同じページには、1992年以降、人間と自然環境との重要な相互作用が文化的景観として認められてきたことも記されています。基準の番号だけでなく、何を遺産として捉えるかの枠そのものが動いてきた、という前提で読むことになります。
統合のとき、自然側の並び順が入れ替わっている
同ページの対応表を見ると、2002年版の自然基準と2005年版の番号は、素直な順送りになっていません。自然(i)が(viii)に、自然(ii)が(ix)に、自然(iii)が(vii)に、自然(iv)が(x)になっています。1番目と3番目の位置が入れ替わった形です。
中身と並べると、この入れ替えの意味が見えてきます。現在の(vii)は自然美、(viii)は地球の歴史、(ix)は進行中の生態学的・生物学的過程、(x)は生物多様性の保全です。景色として目に見えるものから、地質、生態系のはたらき、種の生息地へと並び直された、と読むことができます。
文化側の(i)から(vi)には、この種の並べ替えは起きていません。対応表でも2002年版と2005年版が同じ順に並んでいます。番号のずれを警戒すべきなのは自然側だけ、と切り分けておけます。
1993年に記載された屋久島と白神山地は、旧番号の時代の遺産
文化庁の「日本の世界遺産一覧」によると、屋久島と白神山地の記載は1993年です。2004年末より前なので、記載された当時の自然遺産は、自然の4基準という旧来の組で選ばれていました。
ユネスコ世界遺産センターの遺産ページでは、屋久島の基準は(vii)(ix)、白神山地は(ix)と表示されています。前の節の対応表を逆にたどると、屋久島の(vii)と(ix)は旧番号の自然(iii)と自然(ii)に、白神山地の(ix)は自然(ii)にあたります。
記載年の古い遺産ほど、資料の時期によって番号の見え方が変わりうるということです。番号が食い違ったときは誤りと決めつけず、その資料がいつの時点の番号で書かれているかを先に確かめると、混乱せずに済みます。
(vi)に付いている「あわせて用いることが望ましい」の一文
基準(vi)の文言には、世界遺産委員会はこの基準を他の基準とあわせて用いることが望ましいと考える、という括弧書きが添えられています。ユネスコの選定基準ページにも、日本ユネスコ協会連盟の解説にも、この但し書きが載っています。
10項目のうち、他の基準との併用に触れた括弧書きを持つのは(vi)だけです。出来事や思想との関連は、建築様式や地形のように現物から確かめにくい性質のものなので、他の基準と組み合わせて裏づけることが期待されている、と読めます。
収録問題の基礎知識分野にも、(vi)の適用について「他の基準とあわせて用いられることが望ましい」を選ばせる問題があります。読み分けの練習としては、(vi)が付いている遺産を見たら、ほかにどの基準が一緒に付いているかを確かめる、という手順が使えます。
原爆ドームは(vi)だけ、法隆寺地域は(vi)を含む4つ
この手順を日本の遺産にあてはめます。ユネスコ世界遺産センターの遺産ページでは、広島平和記念碑(原爆ドーム)の基準は(vi)のみです。収録問題にも、原爆ドームを(vi)のみで登録された遺産として扱う問題が3問あります。
対照的なのが法隆寺地域の仏教建造物で、同じくユネスコのページでの基準は(i)(ii)(iv)(vi)です。物としての価値を問う(i)(ii)(iv)に、関連を問う(vi)が添えられている形で、(vi)の但し書きどおりの組み合わせになっています。
この2件を並べておくと、但し書きが具体的な形で残ります。(vi)は多くの場合ほかの基準に添えられ、原爆ドームはそうでない側の例です。収録問題の解説も、原爆ドームへの(vi)の単独での適用を「例外的」と表現しています。
日本の自然遺産5件、(ix)が付いているのは4件
自然側の(vii)から(x)は、日本の自然遺産5件を材料にすると区別しやすくなります。ユネスコ世界遺産センターの遺産ページに表示されている基準は次のとおりです。記載年は文化庁の一覧によります。
- 屋久島(1993年)— (vii)(ix)
- 白神山地(1993年)— (ix)
- 知床(2005年)— (ix)(x)
- 小笠原諸島(2011年)— (ix)
- 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(2021年)— (x)
(ix)は5件中4件に付いていて、付いていないのは奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島だけです。この遺産は(x)のみで、(x)を持つもう1件は知床です。(vii)を持つのは屋久島だけで、収録問題にも屋久島を(vii)が認められている唯一の遺産として問う問題があります。
5件のどれにも(viii)は付いていません。地層や化石、地形の形成過程に関わる(viii)は、日本の遺産では例が取れないので、世界の自然遺産の側で押さえる基準になります。
景色の美しさなら(vii)、進化や生態系のはたらきなら(ix)、絶滅のおそれのある種を含む生息地なら(x)、という対応で5件を当てはめてみると、自然側の基準の違いを1件ずつの具体像で持てます。
基礎知識70問と日本の遺産216問のあいだで、番号を往復する
ケンテイラボの世界遺産検定2級は1,015問を収録していて、分野別では「① 基礎知識」が70問、「② 日本の世界遺産」が216問です。基準の区分や但し書きは基礎知識の側で、どの遺産にどの基準が付くかは日本の世界遺産の側で出てきます。
本記事の順番で使うなら、先に基礎知識で(i)から(x)の区分と(vi)の但し書きを固め、次に日本の世界遺産で原爆ドームや自然遺産5件の基準を解く、という往復になります。間違えた問題は、番号だけでなく、その番号が前半6つと後半4つのどちらに属するかまで確かめ直すと、300件に広げたときにも同じ型で読めます。