メンタルヘルス・マネジメント検定試験のI種(マスターコース)がIII種・II種と決定的に違う点、それが「論述問題」の存在です。I種は選択問題と論述問題の二部構成で、合格にはそれぞれの基準を満たす必要があるとされています。選択問題で得点できても論述が届かなければ合格に至らない構造です。
なぜ論述問題で差がつくのか
I種の受験者はII種取得者や実務経験者が多く、知識量に差はつきにくい層です。それでも合否が分かれるのは、論述が「知っているか」ではなく「使えるか」を問うからです。論述力は選択問題の対策をいくら積んでも身につきません。制限時間内に白紙から文章を組み立てる訓練をせず本番を迎えれば手が止まります。逆に言えば、書き方の型と根拠の手札を用意すれば初見のテーマでも一定水準の答案は組めます。
論述問題の形式と時間配分の考え方
論述は、企業や職場の状況が提示され、人事労務管理スタッフとしてどう考え何を実施するかを述べる形式が中心です。設問数・配点・試験時間・合格基準といった数値は改定されうるため、必ず公式サイトの受験要項で確認してください。
重要なのは、書き始める前に骨子を組む時間の確保です。書きながら考えると論点がずれ、結論を書く前に時間切れになります。時間を「読み取りと骨子作り」「執筆」「見直し」に分け、骨子作りに二割前後を充てる配分が扱いやすいでしょう。骨子は余白に項目を四つから六つ並べれば十分です。
出題されやすいテーマの型
過去の出題内容を断定はできませんが、次のような領域を想定して準備すると対応の幅が広がります。
- 職場環境の改善:作業内容だけでなく人間関係・組織風土まで含めた改善
- 休職者の職場復帰支援:可否判断から復帰後のフォローまでの流れ
- ストレスチェック実施後の対応:集団分析の活用と面接指導の運用
- 教育研修の企画:管理監督者向け・従業員向け研修の設計と評価
- 相談体制の整備:窓口の設置と社内外の資源の使い分け
得点になる答案の骨格
答案の質は書く前の段取りで決まります。次の四手順を型にします。
手順1:設問の要求を分解する
「課題を挙げる」「取り組みを述べる」「留意点を示す」のどれを求められているかを特定します。要求すべてに触れない答案は取りこぼしになるので、分解した要求を答案の構成に対応させます。
手順2:根拠となる指針や制度を挙げる
その課題に対応する法令・指針・制度を名称で明示します。個人の感想ではなく専門知識に基づく判断であることが伝わります。
手順3:自社の立場で具体策を書く
指針の紹介で終わらせず、誰が・いつ・何を・どの範囲で実施するかまで落とし込みます。産業医や衛生管理者との連携、管理監督者への周知など、実務として動く形まで書けているかで差がつきます。
手順4:実行と評価まで書き切る
施策を挙げて終わらせず、実施状況をどの指標で確認し、計画の見直しにどうつなげるかまで触れます。この循環の意識が、I種の問う管理者視点です。
使いこなしたいキーワード集
根拠を正確な名称で挙げられるかが説得力を左右します。次の用語は答案にそのまま書けるまで仕上げましょう。
- 労働安全衛生法、安全配慮義務
- 労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)
- 心の健康づくり計画、一次〜三次予防の区分
- 4つのケア(セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア)
- ストレスチェック制度(集団分析、高ストレス者への面接指導)
- 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き、職場復帰支援の5つのステップ(休業中のケア、主治医による復帰可能の判断、可否判断と支援プラン作成、復帰の決定、復帰後のフォロー)
- 事業場内産業保健スタッフ等(産業医、衛生管理者、保健師、人事労務管理スタッフ)
- 事業場外資源(地域産業保健センター、産業保健総合支援センター等)
- 過重労働対策と長時間労働者への面接指導
- 衛生委員会での調査審議、個人情報への配慮と不利益取扱いの防止
減点されやすい書き方
内容を足す前に減点要因を消すほうが効率的です。多いのは次の四つ。
一般論だけで終わっている
「相談しやすい雰囲気づくりが求められる」だけでは誰でも書ける内容です。設問で示された状況に触れ、何をするかまで書いて初めて評価されます。
立場が人事労務管理スタッフになっていない
I種が想定するのは組織全体の仕組みを設計する立場です。答案が管理監督者の視点や本人のセルフケアに寄る例は多く見られます。誰に何をさせる仕組みを作るのか、と主語を確認しましょう。
指針名・制度名を挙げられない
「国の指針でも示されているとおり」という曖昧な書き方は根拠として機能しません。名称を正確に書けるかに定着度がそのまま出ます。
字数が足りない
分量が伸びない原因は構成の引き出しの少なさです。四手順で項目を並べれば必要な分量は確保できます。同じ主張の言い換えで字数を稼ぐのは逆効果です。
独学での練習方法
ひとつ目は「骨子だけ書く反復」です。想定テーマを選び、答案の項目を四つから六つ順番付きで書き出すところまでをやります。全文を書かないので一本十分程度で終わり、テーマを変えて何本も回せます。
ふたつ目は「時間を計った通し練習」です。手書きで書き切る体力と時間内に収める感覚はこれでしか身につかないので、直前期に数回は入れてください。書き終えたら公式テキストで、指針や制度の落としがないか照合します。
ケンテイラボの639問との併用方法
ケンテイラボではI種の対策問題を639問公開しています。形式は選択問題で、論述問題そのものは収録していません。この点を押さえて土台づくりに使ってください。
- 第1段階:639問を通して解き、正答率の低い分野を特定する
- 第2段階:間違えた問題を繰り返し、指針名・制度名を書けるまで固める
- 第3段階:想定テーマで骨子だけを書く練習に入る
- 第4段階:直前期に時間を計った通し練習を数回行う
この順序を守れば、論述の練習中に「知らないから書けない」と詰まらずに済みます。残るのは構成の問題だけになり、対策の効率が上がります。