日商簿記3級を終えて建設業経理事務士3級のテキストを開くと、多くの人が最初のページで手が止まります。売上高が完成工事高になり、見慣れない未成工事支出金が中心に据えられているからです。
戸惑いの正体は理論ではなく名前
仕訳のルールも財務諸表の構造も、日商簿記で学んだものがそのまま通用します。変わるのは二点だけです。勘定科目の呼び名と、原価をいったん工事ごとに集計してから費用に落とす手順が入ること。身構えるより、対応表を作って読み替えてしまう方が早く進みます。
商業簿記と建設業会計の勘定科目 対応表
- 売上高 → 完成工事高(工事を完成・引き渡して得た収益)
- 売上原価 → 完成工事原価(完成した工事にかかった原価)
- 売上総利益 → 完成工事総利益
- 売掛金 → 完成工事未収入金(引き渡し済み工事の未回収代金・資産)
- 買掛金 → 工事未払金(材料や外注に対する未払代金・負債)
- 仕掛品 → 未成工事支出金(工事中の物件に投入済みの原価・資産)
- 前受金 → 未成工事受入金(先に受け取った工事代金・負債)
混同しやすいのが未成工事支出金と未成工事受入金です。支出金は自社が支出した原価の集まりなので資産、受入金は代金を先に受け取って工事の義務を負っている状態なので負債。逆に感じる人が多い箇所です。
工事原価を4つの費目に分ける
材料費・労務費・外注費・経費
- 材料費:工事に使った資材の消費額
- 労務費:自社が雇用する作業員に対する賃金
- 外注費:下請業者に工事の一部を発注した費用
- 経費:上記以外の費用(現場の水道光熱費、機械の減価償却費、設計料など)
製造業の原価計算は材料費・労務費・経費の3区分ですが、建設業では外注費が独立して4区分になります。鉄筋・型枠・設備といった専門工事を下請に出すのが通常で、外注費が原価の過半を占めることも珍しくないためです。迷ったときの目安は「誰が作業したか」。自社の作業員なら労務費、社外の業者に請け負わせたなら外注費です。
費目別計算の流れ
費目別計算は、期中の支出を4費目のどれかへ振り分けて集計する作業です。前段の線引きとして、本社総務の給料や広告費のように現場にひもづかない支出は工事原価に入れず、販売費及び一般管理費として扱います。
工事ごとに集計し、完成分だけを費用にする
工事別計算の流れ
費目別に集めた原価を、今度は工事ごとに割り振るのが工事別計算です。建設業では同じ建物を二つ作ることがなく、1件ごとに条件も金額も期間も異なります。そこで工事1件につき1枚の工事台帳を用意し、投入した4費目を記入します。全工事分をまとめた表が原価計算表で、縦に費目・横に工事を並べると、費目別の合計と工事別の合計が一致します。
決算日に重要なのは、完成して引き渡した工事の分だけを完成工事原価へ振り替え、まだ工事中のものは未成工事支出金として資産に残す点です。収益費用対応の原則がそのまま働いています。
振替を仕訳で追う
数字で追います。当期に着手したのはA工事とB工事の2件、期中の原価発生額は材料費500,000円、労務費450,000円、外注費600,000円、経費150,000円の合計1,700,000円。材料と外注は掛け、労務費と経費は現金払いとします。
- 材料費:(借)未成工事支出金 500,000 /(貸)工事未払金 500,000
- 労務費:(借)未成工事支出金 450,000 /(貸)現金 450,000
- 外注費:(借)未成工事支出金 600,000 /(貸)工事未払金 600,000
- 経費:(借)未成工事支出金 150,000 /(貸)現金 150,000
工事台帳の内訳はA工事が材料費400,000円・労務費300,000円・外注費400,000円・経費100,000円の計1,200,000円、B工事が材料費100,000円・労務費150,000円・外注費200,000円・経費50,000円の計500,000円で、合計は1,700,000円。費目別の合計と工事別の合計が一致することを自分の手で確かめてください。
決算日にA工事だけが完成・引き渡され、請負金額1,800,000円のうち600,000円は着手時に未成工事受入金として受領済み、残額は後日回収とします。
- 原価の振替:(借)完成工事原価 1,200,000 /(貸)未成工事支出金 1,200,000
- 収益の計上:(借)未成工事受入金 600,000・完成工事未収入金 1,200,000 /(貸)完成工事高 1,800,000
収益計上は借方が600,000円と1,200,000円で合計1,800,000円、貸方も1,800,000円で一致します。完成工事総利益は差額の600,000円。振替後の未成工事支出金は500,000円が残り、これはB工事の投入原価と一致して貸借対照表に資産計上されます。以上の数字を自分で計算し直し、貸借が合うことを確認してから先へ進んでください。流れを眺めるだけでは、本試験で科目や桁がずれます。
ここを押さえると得点が安定する理由
工事原価計算は独立した出題分野であると同時に、他分野の前提でもあります。試算表では未成工事支出金や工事未払金の残高が集計対象になり、精算表では決算整理として完成工事原価への振替を書き込みます。振替が曖昧だと、残高が合わない・修正記入をどちらに書くか迷うという形で失点が広がります。逆に、原価が4費目から未成工事支出金へ集まり完成分だけ抜けていくという流れが入っていれば、試算表も精算表も同じ絵の一部として処理できます。
ケンテイラボの591問での確認方法
ケンテイラボの建設業経理事務士3級対策は全591問を8分野に整理して収録しています。この記事に直接対応するのは「④ 工事原価(費目別計算)」の70問と「⑤ 工事原価(工事別計算)、工事収益、資本金」の72問で、合わせて142問、全体の約24%です。分野を指定して解けるため、この2分野を抜き出して反復するのが効率的です。
まず④で費目の振り分けを反射的に判断できるまで固め、次に⑤で工事別の集計と振替を確認します。間違えたら正解を覚えるのではなく、対応表と仕訳例に戻ってどの段階の理解が抜けていたかを特定してください。登録不要・完全無料です。