事業承継アドバイザー3級は、CBT四答択一式50問のうち10問が5事例の技能・応用で構成されています(銀行業務検定協会・CBTソリューションズの試験要項)。収録問題では、この10問に株価・宅地や家屋の評価額・M&Aの価格算定の計算を置いています。
この記事は、ケンテイラボ収録の426問に出ている手法だけを、適用場面から引ける形に整理したものです。個別の事案についての判断ではなく、検定の出題論点としての整理として読んでください。
株価の式より先に、取得者が同族株主かどうかが決まる
取引相場のない株式の評価は、まず株主の立場によって原則的評価方式と特例的評価方式に分かれます。収録問題では、類似業種比準・純資産価額・配当還元のいずれかに触れる問題が12問あります。
- 同族株主のいる会社で同族株主以外の株主が取得した株式は、配当還元方式で評価する
- 中心的な同族株主がいる会社で、取得者が中心的な同族株主に該当せず、取得後の議決権が総数の5%未満、かつ課税時期に役員でなく申告期限までに役員にもならない場合も配当還元方式(通達188(2))
- この5%未満の区分でも、課税時期に役員である者・申告期限までに役員となる者は除かれ、原則的評価方式になる
- 同族株主の判定では、議決権制限株式も議決権があるものとして数える
- 同族株主が相続・遺贈で取得した無議決権株式は、遺産分割の確定や取得した同族株主全員の届出など一定の条件を満たす場合に限り、5%相当額を減額しその分を議決権株式に加算する方法を選択できる
原則的評価方式は、大会社なら2つ出して低い方を採れる
収録問題の技能・応用には、同じ会社の類似業種比準価額と純資産価額を続けて計算させ、どちらを採るかを問う並びがあります。
- 大会社は類似業種比準価額によることが原則だが、納税義務者の選択により純資産価額によることもできる
- 収録問題の事例では、類似業種比準価額490円と純資産価額436円(38%で計算)のうち436円を選んでいる
- これらの事例には「特定の評価会社に該当しない」という前提が問題文に置かれている
類似業種比準方式は、3要素と資本金等50円という前提から入る
- 比準する3要素は、1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額
- 1株当たりの各要素は、資本金等の額を50円とみなして計算する
- 利益金額の基礎は会計上の税引前当期純利益ではなく、非経常的な利益を除いた法人税の課税所得金額
- 3要素の比の平均である比準割合に、類似業種の株価と斟酌率を掛ける。収録問題の大会社の事例では斟酌率0.7が与えられている
- 配当について優先・劣後のある株式は、株式の種類ごとの年配当金額によって計算する
純資産価額方式は、評価差額に税率を掛けて引くところまでが1問
- 相続税評価額による純資産価額から、帳簿価額による純資産価額を引いて評価差額を出す
- 評価差額に法人税額等相当額の割合を掛け、その額を相続税評価額による純資産価額から控除する
- この割合は通達186-2の改正で37%から38%に改められ、令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した株式に適用される
- 収録問題の事例は38%で、550円から(550円−250円)×38%=114円を引いて436円となっている
- 被相続人の死亡により支給が確定した退職手当金・功労金などは、純資産価額の計算上、負債に計上できる
宅地と家屋は、路線価と固定資産税評価額という別の出発点を持つ
収録問題では、路線価・自用地・貸宅地・貸家建付地・固定資産税評価額のいずれかに触れる問題が7問あり、いずれも技能・応用の事例に入っています。
- 宅地の自用地評価額は、正面路線価×奥行価格補正率(角地なら側方路線価×奥行価格補正率×加算率を加える)に面積を掛けて求める
- 角地の正面路線価は、各路線に奥行価格補正率を掛けた後の金額を比べ、高い方が正面になる
- 貸家建付地は、自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
- 賃貸借で無償返還届出書が提出されている場合、借地権の価額はゼロ、貸宅地は自用地評価額の80%(使用貸借なら自用地評価額のまま)
- 家屋の自用家屋評価額は固定資産税評価額そのもので、貸家は×(1−借家権割合×賃貸割合)
- 特定同族会社事業用宅地等に小規模宅地等の特例を適用する場合、限度面積400平方メートル・減額割合80%(国税庁タックスアンサーNo.4124)
M&Aの価格は、手法名より3つのアプローチのどれに属するかで引く
- インカムアプローチはDCF法・収益還元法で、将来の収益獲得能力を評価結果に反映しやすい
- コストアプローチは時価純資産法、マーケットアプローチはマルチプル法(類似上場会社法)と市場株価法
- DCF法は、事業計画に基づくフリーキャッシュフローを加重平均資本コスト(WACC)で現在価値に割り引き、継続価値を加算する
- マルチプル法で中小企業を評価する場合、非流動性を考慮して評価額を下げる調整を行うことがある
年倍法とレーマン方式は、掛ける対象を取り違えると答えが変わる
- 年倍(買)法は、時価(または簿価)純資産に数年分の利益を加える。利益の種類と年数(通常1〜3年)は事例ごとに異なり、収録問題の事例は調整後営業利益の3年分
- EV/EBITDA倍率法の株式価値は、EBITDA×EV/EBITDA倍率−純有利子負債。純有利子負債は加えるのではなく引く
- EBITDAは簡易的に営業利益+減価償却費で算定する
- レーマン方式は料率が同じでも、積算対象が株式譲渡金額か移動総資産額かによって支払額が変わる
- 収録問題の事例は、株式取得価額3億円と既存借入金の返済額1億円の計4億円に、5億円以下の部分の料率5%に消費税10%を加えた税込5.5%を掛けている(料率区分は仲介者・FAごとに異なる)
同じEBITDAが、価格算定と債務償還力の2か所に出てくる
EBITDAは価格算定だけで使う語ではありません。収録問題では、中小企業庁の収益力改善支援に関する実務指針の側からも問われています。
- EBITDA有利子負債倍率は、(借入金−現金・預金)÷(営業利益+減価償却費)
- 同指針の「財務基盤の強化」では、この倍率が15倍以内であることが指標の目安として挙げられている
- ローカルベンチマークの財務指標では、営業利益率が本業の収支を確認する指標とされ、債務償還力を見る同倍率とは役割が異なる
大会社の株価のように順番が決まっているものと、配当還元方式のように条件で分岐するものが混在しています。適用場面から式を引けるようにしてから数値を入れる練習に移ると、式の選択を誤る余地を減らせます。計算まで踏み込む問題は⑪⑫に、評価ルールの知識問題は⑤⑥⑨にもあります。