HSK3級の文法問題でつまずく箇所には、日本語話者に共通する型があります。単語を知らないのではなく、日本語の語順や発想をそのまま中国語に写してしまうために形が崩れる、というタイプの誤りです。逆に言えば、崩れ方の型さえ押さえておけば、同じ場所で落とし続けることは減らせます。
この記事では、HSK3級の範囲にある文法項目のうち、母語の影響で間違えやすいものだけを集めました。文法の網羅的な解説ではなく、「日本語だとこう考えてしまう」と「中国語ではこうなる」の対比に絞っています。とくに書写第1部分の語句の並べ替えは、この対比がそのまま得点に直結する部分です。
「把」構文は目的語を動詞の前へ引き出す
日本語は「宿題を終わらせた」のように目的語が動詞の前に来ますが、中国語の基本語順では目的語は動詞の後ろが定位置です。ところが「把」構文だけは、その目的語を「把」とともに動詞の前へ引き出します。並びとしては日本語に近くなるため入りやすい一方、中国語側にしかない制約を忘れがちです。
その制約とは、「把」構文の動詞は裸のままでは終われない、という点です。動詞の後ろに結果補語や「了」など、処置の結果を示す成分が必要になります。「我把作业写完了。」であれば「写」の後ろの「完了」がその役目を担っています。
補語は「動詞の後ろに足す」という発想
日本語は「上手に話す」「聞き取れた」のように、動詞の前に副詞を置くか、動詞そのものを複合語にして意味を補います。中国語では、これを動詞の後ろに置く補語で処理します。日本語側に対応する構造がないため、慣れにくい領域です。
- 様態補語:「他说得很好。」の形。目的語があるときは動詞を繰り返して「他说汉语说得很好。」とする
- 結果補語:「听懂」「看完」「做好」のように動詞に結果を足す。否定は「不」ではなく「没」を使う
- 方向補語:「进来」「出去」「回来」のように、動作が向かう方向を後ろから示す
- 程度補語:「累死了」のように、状態の程度を動詞や形容詞の後ろで強調する
並べ替えでは「得」が語群にあるかどうかが目印になります。「得」が見えたらまず様態補語の型を疑い、目的語が別にあるなら動詞を二度使う形を思い出してください。ただし「得」は可能補語(听得懂・看得见。否定は听不懂・看不见)でも使われます。様態補語は「得」の後ろに很好のような程度表現が続く点で見分けられます。
時間・場所・方式は動詞の前にまとめる
中国語では、いつ・どこで・どうやってという情報は原則として動詞の前に並べます。「我明天在图书馆学习。」のように、時間、場所、動詞の順です。日本語も動詞が文末に来るため一見似ていますが、介詞を含む句をうっかり動詞の後ろへ回してしまう誤りが起きやすい箇所です。
手段を表す場合も同じで、「我坐地铁去学校。」のように移動手段が先、目的地へ向かう動詞が後ろになります。日本語の「学校へ地下鉄で行く」という並びのまま組み立てると崩れます。
「了・着・过」は「〜た」と一対一ではない
最も誤解が多いのは、「了」を過去形として覚えてしまうことです。「了」は完了や変化を示す標識であって、時制そのものを表す記号ではありません。日本語の「〜た」を手がかりに付け外しすると、不要な場所に付き、必要な場所で抜けます。
- 了:動作の完了や状況の変化を示す。「我去年去了中国。」
- 着:状態の持続を示す。「门开着。」のように、動作の結果が続いていることを表す
- 过:過去の経験を示す。否定は「没」を使い「过」は残して「我没去过北京。」とする
日本語の「〜た」から出発するのではなく、伝えたいのが完了なのか、持続なのか、経験なのかを先に決める、という順番に切り替えると判断が安定します。この三つの区別は閲読第2部分の空所補充でも繰り返し問われます。
比較文では「很・非常・太」を使えない
「彼は私よりとても背が高い」と日本語で考えると「很」を入れたくなりますが、「比」を使う比較文では「很」「非常」「太」といった絶対程度副詞は使えません。一方で「更」「还」は使え、「A比B+更/还+形容詞」は3級の出題型です。程度を強めたいときはこの2語を用い、差の大きさは「他比我大两岁。」のように具体的な量で後ろに示します。
比較には「比」を使わない型もあります。同等であることを表す「跟…一样」と、及ばないことを表す「没有」で、「我跟他一样高。」「我没有他高。」のように組み立てます。日本語では「同じくらい」「ほど〜ない」と副詞的に処理してしまう部分が、中国語では文の骨組みそのものになる点が違いです。
「被」は日本語ほど気軽には使わない
日本語は受け身を多用します。褒められた、頼まれた、降られた、というように、被害を表す場合にも中立的な場合にも自然に使えます。中国語の「被」はこれより使用範囲が狭く、話し手にとって望ましくない出来事に傾きやすいという偏りがあります。
HSK3級の範囲では、日本語の受け身をそのまま「被」に置き換えるより、能動の語順で言い切るほうが自然になる場面が多くあります。「被」を選ぶのは、動作を受けた側を主語に立てたいときや、その出来事が本人にとって不都合なときだと考えておくと、使いすぎを避けられます。
「できる」は会・能・可以に三分される
日本語の「できる」は一語で広い意味をカバーしますが、中国語ではこれが三つに分かれます。訳語が重なるため、日本語から発想すると選ぶ根拠を持てないまま当てずっぽうになりやすい箇所です。次の三つの観点で切り分けてください。
- 会:学習して身につけた能力かどうか。「我会说汉语。」
- 能:条件や状況が許すかどうか。時間や体調を理由に「今天我不能去」のように使う
- 可以:許可されているかどうか。「你可以进来。」のように相手に許しを与える
空所補充では、その文が能力の習得の話なのか、条件の話なのか、許可の話なのかを見分けるだけで選択肢が一つに絞れることが少なくありません。
書写の並べ替えでこのチェックリストを使う
書写第1部分では語句の並べ替えが5問出題されます。意味が分かっていても語順を外せば得点にならないため、意味から組み立てるのではなく、語群の中の目印から機械的に骨組みを決める手順を持っておくと安定します。次の順で確認すると迷いが減ります。
- 「把」があれば目的語を動詞の前へ。動詞の後ろに置く成分を必ず探す
- 「得」があれば様態補語の型。目的語があるなら動詞を繰り返す
- 介詞を含む句は動詞の前に置く
- 副詞は主語の後ろ、動詞や形容詞の前に置く
- 「了・着・过」は動詞の直後、「的」は修飾される名詞の前という位置を先に確定させる
骨組みを決めてから残りの語を差し込む順番にすれば、日本語の語順に引きずられる余地が小さくなります。ここに挙げた対比は閲読の空所補充でもそのまま働くので、書写対策と読解対策を兼ねる形で、試験前に一度通して確認しておくとよいでしょう。