リテールマーケティング(販売士)検定試験は、2021年度からネット試験方式(CBT方式)に一本化されました。ペーパーの統一試験は2021年2月17日の第87回が最後で、それ以降は各ネット試験会場が決めた日程を予約して受ける随時受験になっています。
この移行は、公表される合格率の見え方も変えました。統一試験の時代は「第何回が何パーセント」という回ごとの数字でしたが、いまは年度単位の集計です。そして年度でならすと、2級の数字は驚くほど動かなくなりました。
本記事では、日本商工会議所が公表している2級の年度別データを並べたうえで、同じ年度の1級・3級との差がどこから来るのかを、出題形式と合格基準の条文から分解します。
ネット試験に移ってからの2級は5割台で動かない
日本商工会議所が公表している2級ネット試験の年度別データは次のとおりです。「受験者数」は申込のうえ受験手続をした人数、「実受験者数」は当日実際に試験を受けた人数で、別の数字として公表されています。合格率は実受験者数を分母に計算されています。
- 2021年度(2021年7月28日〜2022年3月31日)受験者6,054名/実受験者5,655名/合格者3,136名/55.5%
- 2022年度 受験者6,920名/実受験者6,374名/合格者3,531名/55.4%
- 2023年度 受験者7,165名/実受験者6,613名/合格者3,265名/49.4%
- 2024年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)受験者5,857名/実受験者5,453名/合格者3,052名/56.0%
- 2025年度(2025年4月1日〜2026年3月31日)受験者6,279名/実受験者5,870名/合格者3,182名/54.2%
- 2026年4月1日〜6月30日 受験者872名/実受験者807名/合格者492名/61.0%
2021年度から2025年度までの5年間で、最も高い年度が56.0%、最も低い年度が49.4%です。振れ幅は6.6ポイントしかありません。2023年度だけが4割台に沈んでいますが、翌年度には56.0%まで戻っています。
受験者数と実受験者数の差にも触れておきます。どの年度も実受験者数は受験者数より6〜7%ほど少なく、2025年度なら6,279名に対して5,870名です。予約したものの当日受けなかった人が毎年一定数いる、ということになります。
第81回43.9%から第87回73.4%まで振れた統一試験の時代
ペーパーの統一試験だったころの2級は、同じ試験とは思えないほど回ごとに数字が動いていました。公表されている回次のうち、第81回(2018年2月21日)が43.9%、第84回(2019年7月13日)が60.3%、第85回(2020年2月19日)が60.6%、そして最後の統一試験となった第87回(2021年2月17日)が73.4%です。
第81回の43.9%と第87回の73.4%では、29.5ポイントの開きがあります。ネット試験移行後の5年間の振れ幅が6.6ポイントであることと比べると、桁が違う動き方です。
年2回の統一試験日に全国一斉で同じ問題を解く方式では、その回の問題が難しかったか易しかったかが、そのまま合格率に出ます。一方、随時受験では受験者ごとに受ける日も問題も異なり、年度単位で数千人分がならされます。数字が落ち着いたのは、試験が易しくなったからではなく、集計の仕組みが変わったからだと読むほうが自然です。
この違いは、受験前に数字を見るときの構え方に関わります。統一試験時代の「43.9%の回もあった」という情報は、いま予約して受ける試験の見通しにはそのまま使えません。参照するなら年度別の5割台のほうです。
2026年4月〜6月の61.0%は3か月分の数字
直近として公表されている2026年4月1日〜6月30日の61.0%は、過去5年度のどの年度よりも高い数字です。ただしこれは年度の途中経過で、実受験者807名分の集計にとどまります。5,000名を超える年度の数字とは母数が7分の1ほど違います。
随時受験では、いつ受けるかを受験者が選びます。年度の前半に受ける層と、年度末に駆け込む層とで準備の状況が同じとは限りません。3か月分の61.0%をそのまま「2026年度の合格率」として扱うと、年度が締まったときにずれる可能性があります。
数字を見るときは、それが年度通期のものか期間途中のものかを確認しておくと安全です。この記事で扱った数字も、2026年のものだけは4月から6月までの3か月分です。
同じ2025年度で1級17.1%、2級54.2%、3級55.2%
2025年度のネット試験の合格率を級ごとに並べると、1級17.1%、2級54.2%、3級55.2%です。2級と3級の差は1.0ポイントしかなく、実質的に同じ水準と言えます。ところが1級だけは、2級の3分の1以下まで落ちます。
販売士検定には受験資格がなく、1級から3級までどの級からでも受けられます。3級に合格していることは2級の受験条件ではありません。つまりこの3つの数字は、受験資格の有無によるふるい分けを経ていない状態での比較です。
級が上がるほど内容が高度になるのは当然ですが、それだけなら2級と3級のあいだにも差が出るはずです。実際にはそこがほぼ横並びで、1級との境目にだけ大きな段差があります。この段差は制度の側にも根拠があります。出題形式と合格基準の2つです。
1級にだけある記述式穴埋問題と、2級の全問択一
2級と3級の1科目は、択一式正誤問題の小問10問と択一式穴埋問題の小問10問、合わせて20問で構成されます。どちらも選択肢から選ぶ形式で、書く操作は発生しません。
1級の1科目は、記述式穴埋問題の小問10問と択一式穴埋問題の小問10問です。前半の10問は、空欄に入る語句や短文を自分で入力します。用語を選べる状態と、何も見ずに書ける状態とでは、要求される記憶の深さが変わります。
選択式では、正しい記述を積極的に選べなくても、明らかに誤っている選択肢を外していけば正答に届くことがあります。記述式ではその手が使えません。用語を「見れば分かる」水準まで仕上げた人と「書ける」水準まで仕上げた人が、同じ問題で分かれます。
2級と3級が同じ全問択一である以上、この形式差は1級との境目にだけ存在します。合格率の段差が2級・3級の間ではなく1級の手前にある、という並び方と一致しています。
「平均70点」がある級と、ない級
合格基準も、1級だけが別の作りになっています。2級と3級は、5科目の平均得点が70点以上で、かつ1科目ごとの得点が50点以上であることが条件です。1級は「各科目70点以上」で、平均という考え方そのものがありません。
この違いは見た目以上に大きいものです。2級では、ある科目が55点でも他の科目で挽回できます。5科目500点満点の合計が350点に届き、どの科目も50点を割っていなければ合格です。1級では、4科目が満点でも1科目が69点なら、その時点で不合格になります。
そのかわり1級には科目合格制度があります。不合格でも70点以上を取れた科目は翌年度末まで有効で、次回はその科目を受け直さずに済みます。複数回に分けて積み上げていける設計です。
2級に科目合格制度はありません。あるのは養成講習会や養成通信教育講座の修了による「販売・経営管理」1科目の免除だけで、試験の点数で科目を持ち越すことはできません。受けるたびに5科目すべてが採点対象になります。
つまり1級は、1回あたりのハードルが高いかわりに複数回で完成させられる試験で、2級は1回で5科目を通す必要があるかわりに科目間の融通が利く試験です。1級17.1%という数字には、複数回受験を前提にした人がまだ完成していない段階で計上されている、という事情も含まれます。
2028年7月からの4科目再編で、分母の前提が変わる
日本商工会議所は2026年2月3日に、科目体系の変更を公表しました。全級で5科目を4科目に再編し、「小売業の類型」を「流通概論」に、「マーチャンダイジング」と「ストアオペレーション」を統合して「マーチャンダイジング」に、「販売・経営管理」を「リテールマネジメント」に改めます。
配点も変わります。現在は1科目20問×5科目で1問5点の500点満点ですが、再編後は1科目25問×4科目で1問4点の400点満点になります。総問題数100問、試験時間70分、合格基準はいずれも据え置きです。
2級についてのスケジュールは、新しいハンドブックの発刊が2028年2月予定、新体系での試験実施が2028年7月からの予定と公表されています。3級は2027年2月発刊・2027年7月から、1級は2029年2月発刊・2029年7月からです。開始の確定日については、日商も詳細は順次知らせるとしています。
注目したいのは、日商が変更の背景として挙げた内容です。ネット試験に移行してからの受験者数が統一試験の時代の6割程度にとどまっていること、5科目という構成が受験者にとって負担で科目間に内容の重複があること、の2点です。
つまり実施団体自身が、現行の5科目を重い構成だと位置づけています。この記事で見てきた5割台という合格率は、その重さを引き受けた人たちのなかでの割合だということになります。
54.2%という数字の分母に入る前にできること
ここまでの整理をまとめます。2級の合格率は2021年度以降おおむね5割台で安定していて、回ごとに大きく振れた統一試験の時代とは読み方が違います。3級とほぼ同水準である一方、1級との差は、記述式穴埋問題の有無と、各科目70点という基準・科目合格制度という設計の違いによるものです。
2級を受ける立場から見ると、この構造は悪くありません。全問択一で、1科目が50点を割らなければ平均70点で通ります。1級のように1科目の取りこぼしがそのまま不合格になる作りではありません。
そのかわり、科目合格で分割していく道もありません。5科目を同じ日に、70分で100問通す必要があります。実受験者数が受験者数より6〜7%少ないという数字は、その日に間に合わなかった人がいることを示しているとも読めます。
ケンテイラボには2級の対策問題を718問収録しています。5科目のどこが50点を割りそうかを事前に見つける用途に使えます。科目ごとの中身と、平均70点の作り方については別記事で扱っています。