独検3級の文法問題でよく起きるのは、「格変化表は書けるのに、空欄にどの格を入れるか決められない」という詰まり方です。der・des・dem・den の並びを覚えることと、目の前の一文でどの格を選ぶかは、まったく別の作業です。前者は暗記で片づきますが、後者は判断であり、判断には「何が格を決めているのか」を見抜く手順が要ります。
ドイツ語では、名詞の格を決めているのは名詞自身ではありません。文中での役割、直前に置かれた前置詞、その名詞を目的語にとる動詞、このいずれかが外側から格を指定し、冠詞や形容詞の語尾はそれに従って変わります。格変化は原因ではなく結果です。
この記事では格変化表そのものには触れず、「格を決める側」だけを扱います。独検3級(筆記試験60分、語彙は2000語程度が目安)の空欄補充で問われているのは、ほとんどがこの決定要因の識別だからです。
文中の役割で決まる場合
前置詞も特別な動詞も絡まない素の文では、格はその名詞が文の中で果たす役割で決まります。まずはこの基本の対応を確認します。
- 1格(主格)=主語。「誰が・何が」にあたる。sein や werden の後に置かれる述語も1格になる
- 4格(対格)=直接目的語。日本語の「〜を」にあたる部分
- 3格(与格)=間接目的語。「〜に」にあたり、多くは人を指す
- 2格(属格)=所有・所属。「〜の」にあたり、修飾される名詞の後ろに置かれる
Der Mann gibt dem Kind einen Ball. という文なら、与える人 Der Mann が1格、渡される相手 dem Kind が3格、渡される物 einen Ball が4格です。所有を表す2格は das Auto meines Vaters のように後ろから前の名詞にかかります。日本語の「が・を・に・の」との対応でおおむね足りますが、この対応は次に挙げる前置詞と動詞にしばしば上書きされます。
前置詞で決まる場合(3格支配・4格支配・2格支配)
名詞の前に前置詞が立った瞬間、役割の話はいったん消えて、前置詞の格支配が優先します。前置詞ごとに取る格が決まっているので、これは理屈ではなく組で覚える対象です。
- 3格支配:aus・bei・mit・nach・seit・von・zu(mit dem Bus、seit einem Jahr、aus der Schweiz、bei meiner Tante)
- 4格支配:durch・für・gegen・ohne・um・bis(durch den Park、für meinen Bruder、ohne dich、um den Tisch)
- 2格支配:während・wegen・trotz・(an)statt(während des Sommers、wegen des Wetters、trotz des Regens)
実戦的には、数の少ない4格支配と2格支配を先に固定してしまうのが早道です。次に挙げる3・4格支配の9つを別枠として覚えておけば、残る主要な前置詞は3格支配として処理できます。2格支配は数が少ないぶん見落としやすく、独検3級の過去問でも während や trotz が選択肢に並びます。
場所か方向かで決まる場合(3・4格支配)
in・an・auf・über・unter・vor・hinter・neben・zwischen の9つは、3格と4格の両方を取ります。どちらになるかは前置詞ではなく、その句が場所を表しているか、移動の方向を表しているかで決まります。wo(どこで)なら3格、wohin(どこへ)なら4格、という判定です。
- Das Buch liegt auf dem Tisch.(机の上にある=場所なので3格)/Ich lege das Buch auf den Tisch.(机の上へ置く=方向なので4格)
- Ich bin im Kino.(映画館にいる=3格)/Ich gehe ins Kino.(映画館へ行く=4格)
- liegen・stehen・sitzen・sein のような状態を表す動詞とは3格、legen・stellen・setzen・gehen・fahren のような移動を伴う動詞とは4格が組みやすい
- am Montag、im Sommer、vor zwei Jahren のような時の表現は方向の話ではないため3格になる
例外に見えるのは、über や auf が「〜について」「〜を待つ」のように場所と無関係な意味で使われる場合です。sprechen über den Film、warten auf den Bus はどちらも4格に固定されますが、これは場所か方向かの原則ではなく、次に述べる動詞側の要因で決まっています。
動詞で決まる場合(3格目的語の動詞・再帰動詞)
日本語に訳すと「〜を」に見えるのに、3格の目的語をとる動詞があります。訳語から格を決めようとすると必ず外すため、動詞ごと覚える必要があります。
- helfen(Ich helfe meiner Mutter.)、danken(Ich danke dir.)、gehören(Das Buch gehört meinem Bruder.)は3格
- gefallen、antworten、gratulieren なども3格の目的語をとる
- geben・schenken・zeigen・schreiben は「人に3格・物に4格」の二重目的語をとる
- 動詞と前置詞が決まった組をつくる場合、格はその前置詞に従う(sich interessieren für +4格、denken an +4格、sich freuen auf +4格)
再帰動詞では、再帰代名詞そのものの格も問われます。Ich interessiere mich für klassische Musik. のように4格が基本ですが、別に4格の目的語があるときは再帰代名詞が3格になります(Ich wasche mir die Hände.)。ここは意味からの類推が効かないので、動詞・前置詞・格を三点セットで覚えるほかありません。
融合形はどの格が畳み込まれているか
前置詞と定冠詞がくっついた融合形は、単に短くなった形ではなく、格の情報が畳み込まれた形です。分解して元に戻せれば、そのまま格が読み取れます。
- im = in dem(3格)/ins = in das(4格)
- am = an dem(3格)/ans = an das(4格)
- zum = zu dem(3格)/zur = zu der(3格)
- vom = von dem(3格)/beim = bei dem(3格)
zu は3格支配なので、zum も zur も必ず3格です。一方で in と an は3・4格支配ですから、im や am が見えたら場所か時、ins や ans が見えたら方向、と意味まで絞り込めます。
選択肢で迷ったときの手順
空欄に入る冠詞や代名詞を選ぶときは、次の順序で見ていくと判断が安定します。前置詞を最初に見るのが要点です。
- 1. 空欄の前に前置詞があるかを見る。あれば格はそこで決まる。2格支配(während・wegen・trotz・(an)statt)なら2格、3・4格支配の9つなら wo か wohin かを判定する
- 2. 前置詞がなければ動詞を見る。helfen 型の3格動詞か、決まった前置詞をとる動詞か、再帰動詞かを確認する
- 3. どちらでもなければ役割で決める。主語なら1格、「〜を」なら4格、「〜に」なら3格、後ろから名詞にかかるなら2格
- 4. 格が決まってから、初めて名詞の性と数を確認して語尾を選ぶ
この順序を逆にして、性や語尾から考え始めると、格の判断が後回しになり、表は覚えているのに答えを外すという事故が起きます。前置詞・動詞・役割の順に見る癖をつけておけば、名詞の格変化・前置詞・動詞と前置詞の結びつき・形容詞の格変化に散らばる出題を、同じ手順で処理できます。